遺産分割協議による相続登記|流れから協議書作成まですべて解説
- 投稿日2023/03/27
- 更新日2023/04/25
相続登記をする場合、遺産分割協議書が必要になることが多くあります。遺産分割協議とは、遺産の分け方について相続人で話し合うことをいいます。本記事では、どのような場合に遺産分割協議が必要になるのか、遺産分割協議書はどうやって作るのか、相続登記の申請の流れとともに、詳しく見ていきましょう。
相続登記の前に「遺産分割協議」が必要になる場合
そもそも遺産分割協議とは、財産を誰にどう分割するか、相続人全員で話し合って全員の合意によって配分を決めることです。相続人が一人しかいない場合は、遺産分割協議の必要はなく、その相続人が相続登記を行います。よって、相続登記の前に遺産分割協議が発生するのは、大前提として相続人が複数人いる場合です。より具体的には、次のような場合に遺産分割協議が必要になります。
遺言書が存在しない場合
遺言書がある場合は、遺言を残した被相続人の意思を尊重し、遺言書の内容で財産の分配が決まるので、遺言書で不動産を取得することになった相続人が相続登記を行うことになります。
ところが、遺言書が存在しない場合や遺言書が形式不備で無効になった場合は、不動産などの財産を「共同相続」として、相続人全員の共有している状態になります。そこで、相続登記の前に遺産分割協議を行って、不動産を取得する人を決め、その相続人が相続登記を行うことになります。相続登記の手続きの前に、相続人間で誰がその不動産を引き継ぐのかを話し合うということです。
遺言書は存在するが、遺言書が無効と判断された場合
遺言書は検認手続き後に開封を行いますが、その開封後に形式不備が発覚し、遺言書が無効になることがあります。特に遺言を残す本人が直筆で書く「自筆証書遺言」に多くあります。遺言書が無効となってしまった場合は、遺産分割協議で相続する方を決め、相続登記を行います。
遺言書は存在するが、記載のない不動産(財産)が見つかった場合
遺言書がある場合は遺言書の内容で財産の配分が決まりますが、例えば遺言書から漏れていた不動産が後から見つかった場合はどうなると思いますか?遺言書に記載のない不動産が見つかったら、その不動産についてのみ遺産分割協議を行い、不動産の相続人が相続登記を行います。
遺言書は存在するが、相続人全員が遺言書の内容に反対している場合
遺言書がある場合は相続人の意向に関係なく、遺言書の内容が最優先です。ところが相続人全員が遺言書の内容に反対している場合、相続人全員の合意のうえ、遺産分割協議を行うことが可能です。 なお遺言書で遺贈についての記載がある場合には、受遺者(遺贈を受け取る相手)にも遺贈の放棄について合意の意思表示を得る必要があります。また「Aさんに財産の30%を遺贈する」など、財産の全部(または一部)を一定の割合で包括的に遺贈する「包括遺贈」の場合は、遺贈の放棄について家庭裁判所での手続きが必要です。遺産分割協議を行った後、不動産の相続人が相続登記を行います。
相続人が法定相続分での相続を望まない場合
「法定相続分」とは民法900条で定められている遺産配分の割合のことです。法定相続分で不動産を分割する場合は、相続人全員の共有名義で相続登記を行い、共有持分割合は法定相続分に従って決めます。相続人が法定相続分で納得するなら、その分割内容で遺産分割協議書を作成し、合意が取れていることを明確にします。
しかしながら、法定相続分はあくまでも目安で必ずしも法定相続分どおりに遺産を分ける必要もないので「共有状態は御免だ」「法定相続分では足りない」などと法定相続分での相続を望まない相続人がいれば遺産分割協議を行って配分を決めることになります。
遺産分割協議による相続登記の流れ
遺産分割協議による相続登記手続きの流れは次の通りです。
STEP1 相続人を調査・確定する
遺産分割協議には、話し合って取り決めた財産の分配に対し、相続人「全員」の合意が必要です。相続人全員が参加しなければ、遺産分割協議では全員の合意が取れなかったことになり、遺産分割協議は無効となります。そのため、まずは誰が相続人になるのかを調査し、遺産分割協議に参加する相続人を「確定」させなければなりません。
被相続人の戸籍には婚姻・離婚・養子縁組・認知といった情報があるので、そこから相続人を正確に特定することができます。ゆえに、被相続人の出生から死亡までの戸籍を遡って集め、その情報を元に関係者の戸籍などを取得し、誰が相続人なのか調査・特定して、相続人を確定させます。
この相続人の調査が不十分だと遺産分割協議の後から調査時に漏れていた相続人が現れ、相続の権利を主張することもあります。遺産分割協議には相続人全員の合意を必要とするため、遺産分割協議で取り決めた内容は無効になり、やり直しをしなければなりません。
そのため、この相続人の調査・確定は最初にして、もっとも重要なステップといえます。
STEP2 相続財産を調査・確定する
相続人が確定できたら、今度は財産の調査と確定を行います。例えば不動産は、固定資産税の納税通知書や役所で取得できる名寄帳から調査・確定させます。
不動産以外にも、自動車や貴金属類などの動産、現金や預貯金などの現物財産、株式などの有価証券、ほかにも借金やローンなどの負債なども財産ですので、これらの有無も調査します。
この調査に漏れがあり遺産分割協議後に財産が見つかると、後で見つかったその財産について再度遺産分割協議を行わなければなりません。遺産分割協議を複数回行うのは手間が増えるだけなので、この段階で相続財産を漏れなく調査し、確定させておくのが望ましいです。
STEP3 遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議を執り行い、STEP1で確定した相続人全員で財産の配分について取り決めます。財産の分け方には次の4種類があります。
現物分割 | 「長男に不動産を、長女に車を相続させる」などと相続人へ「現物」でそのまま分ける遺産分割方法のこと |
換価分割 | 財産を売却して現金化し、法定相続分を目安に「妻に500万円、息子に300万円」などと現金で相続する遺産分割の方法のこと |
代償分割 | 特定の相続人が現物で相続する代わりに、その相続人が他の相続人に対して、法定相続分との差分を現金で支払って調整する遺産分割の方法のこと |
共有 | 財産を複数の相続人で共有状態で相続すること |
どの相続人に、どの分け方で、どの程度の財産を相続させるのか決めます。
また、遺産分割協議の形式については特に法律で指定されているわけではありませんので、必ずしも全員が同じ時間・空間に集まる必要はありません。オンライン会議サービスの使用やSNS上でのやり取りでもOKです。ただし、遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要となることは覚えておきましょう。相続人全員からの意見を聴取し、相続人全員が協議で取り決められた財産の配分に合意しなければなりません。
財産の分け方について相続人全員が合意したら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員で署名と実印を押印します。
遺産分割協議がまとまらなかったらどうなる?
遺産分割協議での財産の分け方に反対する相続人が出てきて、なかなか相続人全員の合意が得られないかもしれません。そのような場合は家庭裁判所で「遺産分割調停」を申し立てます。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらい、中立公正な立場から相続人の言い分を聴取・調整し、財産の分け方を提案してもらう手続きです。遺産分割調停でも揉め、財産の配分が決まらない場合は遺産分割審判に自動的に進みます。
遺産分割審判では公平を期すために民法で定められた法定相続分に基づいた割合での相続になることも多いです。
STEP4 不動産の相続人が必要書類を準備する
遺産分割協議の結果、不動産を取得する相続人が単独で相続登記の申請をします。申請にあたり必要書類(後述)をそろえます。
STEP5 不動産の相続人が登記申請書を作成する
相続人は不動産の登記申請書を作成します。登記申請書の様式は法務局のホームページで公開されていますのでダウンロードして印刷しましょう。以下に沿って正確に記入していきます。
記入箇所 | 記入事項 |
登記の目的 | 「所有権移転」と記入する |
原因 | 被相続人の死亡日(戸籍上の死亡日)を記入する |
相続人(被相続人) | 被相続人の氏名と、相続人の住所と氏名、連絡先の電話番号を記入する |
添付情報 | 添付する書類のこと。法務局の記入例を参考に記入する |
登記識別情報の通知希望 | 特段の事情がなければ、通知を希望する |
申請日 | 登記申請書を提出する日を記入する |
法務局 | 不動産の所在地を管轄している法務局を記入する |
課税価格 | 市町村役場・都税事務所で発行できる「固定資産評価証明書」をもとに課税価格を記入する |
登録免許税額 | 登録免許税額は課税価格の0.4%で算出し記入する |
不動産の表示 | 法務局で発行できる「登記事項証明書」をもとに記入する |
STEP6 不動産の相続人が法務局で相続登記を申請する
法務局に向かい、相続登記の申請を行います。
遺産分割協議による相続登記の必要書類一覧
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(出生から死亡まで)
- 被相続人の住民票の除票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書:登記原因証明情報
- 遺産分割協議の結果、不動産を取得する相続人全員の住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
このほかにも、遺産分割協議書や登記申請書を作成する際には法務局で発行できる登記事項証明書を使用します。遺産分割協議による相続登記の場合、必要書類が多いので抜け漏れなく集める必要があります。
「遺産分割協議書」とは?作成が必要?
「遺産分割協議書」は遺産分割協議の配分に関する合意内容をまとめたものです。遺産分割協議に基づいた相続登記なので、遺産分割の内容を証明する書類(登記原因証明情報)として必要となります。
遺産分割協議書の書き方【文例】
遺産分割協議書には法律で定められた書式が存在しませんが、書き入れるべき項目は一般的に次のようなものです。
「遺産分割協議書」というタイトルと被相続人・相続人に関する表記
「遺産分割協議書」というタイトルに続き、被相続人(亡くなられた方)の情報を、戸籍謄本や住民票などの情報をもとに正確に記載しましょう。相続人全員の名前を記します。
文例
遺産分割協議書
被相続人 [記入]
氏名 [記入]
生年月日 [記入]
死亡日 [記入]
本籍 [記入]
最後の住所 [記入]
上記の被相続人の財産について、相続人である [記入:相続人名] 、[記入:相続人名]、[記入:相続人名は協議により、次のとおり分割することに合意した。
財産の配分に関する表記
被相続人の財産をどの相続人にどう配分するのか、遺産分割で取り決めた内容を書き示します。
文例
[記入:相続人名]は、次の財産を相続する。
(1)[記入:財産の種類]
(2)[記入:財産の種類]
(3)[記入:財産の種類]
[記入:相続人名]は、次の財産を相続する。
(1)[記入:財産の種類]
(2)[記入:財産の種類]
(3)[記入:財産の種類]
[記入:相続人名]は、次の財産を相続する。
(1)[記入:財産の種類]
(2)[記入:財産の種類]
(3)[記入:財産の種類]
不動産の場合は登記事項証明書に従って記入します。
土地 | 所在 地番 地目 地積 |
建物 | 所在 家屋番号 種類 構造 床面積 |
マンション | (1棟の建物の表示) 家屋番号 建物の名称(建物の番号) 種類 構造 床面積 (専有部分の建物の表示) 家屋番号 建物の名称 種類 構造 床面積 (敷地権の目的たる土地の表示) 土地の符号 所在及び地番 地目 地積 (敷地権の表示) 土地の符号 敷地権の種類 敷地権の割合 |
そのほかの預貯金や有価証券、自動車などについても正確に記載していきます。銀行などは支店名・口座番号まで書き記します。
遺産分割協議後に見つかった財産の取り扱いについて
遺産分割協議が終わってから財産が見つかることもあります。そのようなイレギュラー時の対応についても取り決めておきましょう。遺産分割協議で記載のない財産について誰に相続させるか決めておいても良いです。
文例
本協議書に記載のない財産については、別途協議する。
遺産分割協議の成立と遺産分割協議書の保管枚数
遺産分割協議で決まった財産の配分と協議書の保管枚数(相続人の人数分保管)を記入します。
文例
上記のとおり、相続人全員の遺産分割協議が成立したのでこれを証するため、本協議書を[記入:枚数]通作成し、各自1通を保管する。
協議が成立した日付と署名・押印
協議が成立した日付を記入し、相続人全員の住所と署名の記入欄、押印欄を作ります。遺産分割協議書を作成後、相続人全員に住所と署名を記入してもらいます。住民票と印鑑証明書と同じものを記入するようにお願いしてください。次に署名と重ならないように実印で押印してもらいます。実印による押印と印鑑証明書によって遺産分割協議が相続人本人の意思により行われたと証明できます。
文例
[記入:作成日]
住 所 [記入]相続人 (印)
住 所 [記入]相続人 (印)
住 所 [記入]相続人 (印)
また遺産分割協議には相続人全員の実印による「契印」や「割印」が望ましいです。
- 契印:遺産分割協議の内容が複数枚にわたる際に、見開きのつなぎ目部分に押印する
- 割印:遺産分割協議書を2部以上作成する際に、各協議書をずらして重ね、上部に押印する
契印や割印がなくても遺産分割協議書が無効になることはありませんが、契印や割印があると遺産分割協議書の改ざんが難しくなります。念のために相続人全員による契印と割印をしておくのが安全です。
遺産分割協議書作成時の注意点
遺産分割協議書作成時には以下の点にも注意しましょう。
- 遺産分割協議書の作成について、手書きまたはパソコンのどちらでもよい
- 遺産分割協議書の作成について、縦書き・横書きのどちらでもよい
- 財産を特定できるように詳細に記載する
- 不動産は記載漏れも多いので、必ず登記簿の記載通りに記入する
- 遺産分割協議書末尾の相続人の署名や住所に誤りがあった場合、二重線の上に相続人の訂正印を押印し、正しい情報を記入する
- 遺産分割協議書の本文に誤りがあった場合は、二重線の上に相続人「全員」の訂正印を押印し、正しい情報を記入する
- 不動産は記載漏れも多いので、必ず登記簿の記載通りに記入する
不動産のみの遺産分割協議書について
一度の遺産分割協議で、すべての財産の配分について取り決める必要はありません。「一部分割」として、特定の財産の配分についてのみ遺産分割協議を行うことも認められています。
例えば、相続不動産の売却を検討している場合、相続登記をしなければ所有者であることを主張できず、売却の手続きを進めることができません。
そこで一部分割により先に売却を検討する不動産についてのみの遺産分割協議を成立させ、相続登記を行うことで相続手続きと並行して売却の手続きを進めることができます。
このような場合に不動産のみの遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書上の財産の配分に関する表記部分には不動産の配分についてのみ記載しましょう。不動産のみの遺産分割協議書が完成したら、他の必要書類をそろえ、不動産の相続人が相続登記を申請します。
遺産分割協議による相続登記の疑問は解消されましたか?不安ならご相談ください
遺産分割協議から相続登記まで、以下の流れで手続きが進みます。
- STEP1 相続人を調査・確定する
- STEP2 相続財産を調査・確定する
- STEP3 遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する
- STEP4 不動産の相続人が必要書類を準備する
- STEP5 不動産の相続人が登記申請書を作成する
- STEP6 不動産の相続人が法務局で相続登記を申請する
中でも必要書類の準備や遺産分割協議書の作成には時間を要します。遺産分割協議書に不備があると後々、相続人間で財産をめぐってトラブルが発生する可能性もあります。
司法書士ならば相続登記の手続きを代理できますし、相続登記に必要な戸籍の取得や遺産分割協議書の作成についても相続登記に付随する業務として対応できます。遺産分割協議から相続登記まで全般的な支援を求めるならば、司法書士が適任です。まずはご相談ください。