遺言書は、ただ作成すればよいというものではありません。
遺言書に法的な効力を持たせるには、しっかり民法の規定に沿って作成する必要があります。そのため「いざ開封してみたら無効だった」ということも少なくありません。
では、遺言書にはどんな効力があり、どのような決まりがあるのでしょうか?
この記事では遺言書の効力をはじめ、無効になるケースや遺言書作成で注意すべき点について詳しく解説していきます。
遺言書の主な効力とは?どんな事項を指定できる?
遺言書に法的な効力を発生させるには、民法に定められた形式で作成しなければなりません。ここからは具体的に「どのような事項を書けばよいのか」について解説します。
法定相続人における相続分の割合(民法902条)
被相続人(相続される人)は遺言書で相続人(相続する人)の全員、または一部の相続人に対する遺産の取得割合を決められます。
民法で定められた相続分を「法定相続分」と言いますが、遺言書によって法定相続分と異なる取得割合を指定可能です。その割合は、法定相続分よりも優先されます。
たとえば「妻に相続財産の60%を相続させる」や「長女に相続財産の30%を相続させる」などです。
ただし相続人の遺留分は侵害できません(遺留分の詳細については後述)。
法定相続人における遺産分割の方法(民法908条)
遺言書では、誰に何を相続させたいのかを指定できます。
たとえば「妻に現金および預貯金の全額を相続させる」「長男に全ての家と土地を取得させる」「長女に全ての株式を相続させる」などを具体的に指定可能です。
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割の協議を行います。遺言書で分割方法が指定されている場合はそちらに従うのが一般的ですが、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容と異なる方法での遺産分割もできます。ただし、次に紹介する「遺留分」には注意です。
遺言書の作成時には「遺産相続遺留分」に注意しよう
遺産相続では、法定相続分よりも遺言で指定された相続分が優先されますが、さらに優先されるのが「遺留分」です。
たとえば遺言書に「愛人とその子に全財産を相続させる」と書かれていても、本来、財産を相続するはずだった遺族は納得できないでしょう。
そこで民法では、法定相続人の権利を守るために最低限の相続分を保証しています。これが「遺留分」です。相続人が親のような直系尊属のみの場合は1/3、それ以外の場合は1/2です。兄弟姉妹に遺留分はありません。
たとえば妻や夫の遺留分は1/2×1/2=1/4となります。
法定相続人における遺産分割の禁止(民法908条)
被相続人が「自分の死後すぐには遺産分割しないほうがいい」と判断した場合は、遺言書によって遺産分割を一定の期間させないことができます。つまりは「禁止する」ということです。
たとえば、「相続人同士で揉める可能性があり、一定の冷却期間を設けたほうがよい」と考えた場合や、「相続人に未成年者がいて自分で判断できる年齢まで待ってあげたい」などのケースが考えられるでしょう。
ただし遺産分割を禁止できる期間は、相続開始から最長で5年です。また、必ず「遺言」で指定する必要があります。生前に口頭で家族に伝えたり、エンディングノートで指定したりしても効力はありません。
遺贈(民法964条)
遺言書によって相続財産の全て、または一部を他人に渡すことが可能です。
たとえば、「長男の嫁に現金および預貯金の全額を遺贈する」「社会貢献のために全財産をNPO法人に寄付する」などがあるでしょう。
遺贈とは遺言による贈与のことで、法定相続人以外の他人や、法人・組織に対しても可能です。一方で、受遺者(遺贈を受ける側)からの放棄も認められています。
なお、遺贈によっても相続人の遺留分は侵害できません。
遺言による担保責任の指定(民法914条)
遺言書で相続人同士の担保責任を指定できます。
たとえば兄と弟で同額程度の遺産を相続したが、兄の方の遺産には100万円分の債権が含まれていたとします。
この場合、もし兄が債務者に支払い能力がなく100万円を回収できなければ、弟よりも相続した額が少なくなってしまい、相続が不公平になってしまいます。
このような事態を防ぐために、何か問題が起きたときは他の共同相続人に対し、同程度の損害賠償を求めることができます。上記の例では、兄は弟に対して250万円の損害賠償を請求できます。
請求後は共同相続人同士、それぞれの相続分に応じて責任を負います。このことを相続人相互の担保責任と言いますが、遺言によって「弟の担保責任を免除する」などの補い方を指定できます。
生命保険の受取人の変更(保険法44条1項)
生命保険の受取人の変更は生命保険会社を経由して行うことが一般的ですが、遺言によっても変更可能です。
ただし遺言によって変更する場合は、原則、保険約款で定められている者の範囲内で決める必要があります。一般的には、配偶者と一定の血族に限定されているケースが多いでしょう。
また、保険契約の内容と遺言書の内容が一致している必要があります。受取人変更について保険会社側で審査され問題ないと判断されたら新しい受取人に保険金が支払われます。
相続人の廃除(民法892条)
遺言によって推定相続人(相続が開始した場合に相続人となる人)の相続権を廃除できます。ただし誰でも自由に廃除できるわけではなく、一定の条件が必要です。
その条件とは、遺留分を有する相続人が被相続人を虐待したとき、もしくは重大な侮辱を加えたとき、またはその他の著しい非行があったときです。
たとえば、「お金を返さない次男に意見すると、何年も暴力をふるわれ続けたので相続させたくない」「素行が悪い三男から日常的に『早く消えてしまえ』などの暴言を吐かれ続けている。相続させたくない」などのケースが考えられるでしょう。
相続人の廃除は、存命中に行う「生前廃除」と、遺言で指定する「遺言廃除」の2つがありますが、いずれの場合も家庭裁判所への申し立てが必要です。
生前廃除の場合は被相続人、遺言廃除の場合は遺言相続人が申し立てます。
「遺言廃除」は遺言執行人(遺言書の内容を実現する人)が手続きを行う必要があるため、遺言書の中で遺言執行人についても指定します。
婚外子の死後認知(民法781条)
認知とは、非嫡出子(婚姻関係外でもうけた子供)を自分の子供であると認めることですが、遺言によって愛人や内縁の妻・夫との間に生まれた子供を認知(死後認知または遺言認知という)できます。非嫡出子は認知されれば遺産を相続することが可能です。
たとえば愛人関係にあった両親との間に生まれた子どもでも、遺言で認知されれば父親の遺産を相続できます。その場合は遺言執行人が認知の届け出を行います。
「本人の承諾を前提条件とした成人の子どもの認知」や「母親の承諾を前提条件にした胎児の認知」も可能です。
なお、婚外子の法定相続分は嫡出子と同等です。
かつては民法900条において、「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1」と定めていましたが、民法改正(平成25年12月11日公布・施行)によってその部分が削除されました。
遺言執行者の選任(民法1006条)
原則、遺言書の内容を執行するのは相続人全員になります。
遺言を執行するにあたって、遺言執行人は必ずしも必要ではありませんが、遺言で遺言執行人が指定されている場合は、遺言執行人だけが手続きを進められます。
民法(1006条)では、「遺言執行人は1人または数人を指定、またはその指定を第三者に委託することができる」と定められていますが、遺言執行人を引き受けたくない事情があるときは就任を拒否できます。
ただし、先述した「相続人の廃除」や「認知」などを行う場合は、遺言執行人の選任が必要です。
未成年後見人の指定(民法839条1項)
未成年後見人とは、親権者がいない未成年者のために、親権者に代わってその未成年者の財産管理と身上監護をする人を指します。
仮に遺言者に未成年の子どもがいて、亡くなることで親権者がいなくなる場合は未成年後見人を指定できます。
ただし、指定された人は未成年後見人を拒否することも可能です。
認知症の人や15歳未満はNG?遺言書の効力を持たせるために必要な要件とは?
遺言書が効力を持つには、民法で定められた形式に沿って作成する必要があります(作成方法の詳細については後述)。
また作成者の遺言能力として、以下の2つを満たさなければなりません。
- 満15歳以上であること
- 遺言作成時に意思能力があること
満15歳以上であれば未成年でも遺言が可能ですが、自分が起こした行動の結果が理解できる意思能力(一般的に7歳から10歳程度の者の知力)が必要になります。
遺言書の有効期限は?開封したらどうなる?
遺言書に有効期限はありません。何十年も前に書いた遺言書であっても、それ以降に新しい遺言書が作成・発見されなければ有効です。
ただし時間が経つと家族や財産状況に変化が生じるので、毎年遺言の内容を見直し、書き直すべきかを検討した方がよいでしょう。
また、家族の立場として遺言書(公正証書遺言以外)を発見した場合は開封せず、家庭裁判所に「検認」を請求します。家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会いの元で開封する必要があるからです。
万が一、開封した遺言書でも効力自体は失われませんが、「検認なし」で開封すると5万円以下の過料(罰金)が科されるので注意しましょう。
なお開封後に、故意に遺言書を隠したり破棄したり、改ざんしたりすると相続権を失うので気を付けてください。
遺言書の種類や無効になるケース
一口に遺言書と言っても、作成方法によって「普通方式」と「特別方式」の2つに分かれます。
多くのケースでは「普通方式」での遺言書になりますが、死亡の危急が迫っている場合などは「特別方式」も認められています。今回は一般的な「普通方式遺言」についてのみ解説していきます。
普通方式遺言は、さらに自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つに分かれます。
遺言者の手書きのみで作成する「自筆証書遺言」
自筆証書遺言とは、全文を自筆で書き上げる遺言書です。ただし添付する財産目録に関しては、自筆でなくてもかまいません。
ほかにも、以下の形式を守って作成する必要があります。
- 作成した日付および氏名を自書する
- 押印する(認印でもかまわない)
自筆証書遺言のメリットには、以下があります。
- 無料で自分1人で作成できる
- 証人不要なので内容を秘密にできる
一方のデメリットは、以下の通りです。
- 紛失の危険がある
- 保管場所が知られると隠ぺいや破棄、改ざんの可能性がある
- 発見されないリスクがある
- 相続人が家庭裁判所で検認してもらう必要がある
作成後に内容を変更したい場合は、その箇所を指示して変更した旨を記載します。署名と変更箇所への押印も必要です。
訂正方法が間違っていると無効になるので気を付けましょう。
ほかにも、以下のようなケースで無効になります。
- パソコンや録音、録画(CDやDVD、メモリーなどの電子記録媒体など)による作成(財産目録を除く)
- 第三者による代筆
- 内容が不明瞭
- 共同で書かれた遺言書(夫婦共同名義など)
- 遺言能力がない状態で書かれた遺言書(認知症の人や15歳未満など)
なお、病気等が原因で自筆証書遺言を書けない場合も、次に紹介する公正証書遺言を作成してください。
公証役場等で作る「公正証書遺言」
公正証書遺言とは、「公正証書」という形式で残す遺言のことです。遺言者が公証役場の公証人に口頭で内容を伝え、公証人がその内容を筆記して作成します。
公正証書遺言のメリットは、以下の通りです。
- 法律の専門家である公証人が作成するので基本的に遺言書が無効になることがない
- 相続人が家庭裁判所で検認しなくても良い
- 原本が公証役場で保管されるので偽造や紛失の心配がない
相続トラブルを避けたい場合に確実な方法と言えるでしょう。
一方のデメリットは、以下の通りです。
- 自筆証書遺言とは異なり手数料が発生する(全国一律)
- 証人が2名以上必要(家族が証人になれるとは限らない)
公正証書遺言の手数料は、記載する財産の合計額によって変わるため、通常は自筆証書遺言や秘密証書遺言よりも高くなります。
また、証人を依頼する相手がいない場合は公証役場から紹介を受けたり、法律の専門家への依頼を考えたりするのが一般的ですが、その場合は別途費用が発生します。
公正証書遺言が無効になるケースは多くないものの、以下のような場合に無効となります。
- 遺言能力を有していない(認知症や精神障害など)
- 口授が欠けていた
- 証人になれない人が証人になっていた
- 遺言書の真意と内容に違いがあった
- 公の秩序に反していた(常識から考えても明らかにおかしいなど)
なお、公正証書遺言は、被相続人が遺言書の存在を周囲に知らせず亡くなった場合でも、「遺言検索システム」という仕組みによって存在の有無を確認できます。全国どの公証役場でも検索・照会依頼が可能です。
家庭裁判所での検認が必要な「秘密証書遺言」
秘密証書遺言とは、封筒に入れて封印した遺言書を、公証人と2名以上の証人に「本人の遺言である」と証明してもらう形式の遺言です。
具体的には、遺言者が遺言書に署名と押印して封筒に入れ、同じ印鑑で封印します。本文は手書き・パソコン・代筆でもかまいません。
秘密証書遺言のメリットは、以下の通りです。
- 遺言の内容を秘密にできる
- 公正証書遺言に比べて公証人に支払う手数料が安い
- 改ざんの心配がない
秘密証書遺言の内容には公証人が関与しないため、誰にも内容を知られず秘密にできます。
一方のデメリットは、以下の通りです。
- 証人は2人同席が必須
- 発見されないリスクがある
- 遺言者本人が保管する
- 相続人が家庭裁判所で検認してもらう必要がある
また、無効になるケースには以下のようなものがあります。
- 署名や押印がない
- 封印の押印が遺言書の押印と異なっている
まとめ 遺産相続はトラブルの元にも!遺言書の作成は専門家に依頼しよう
遺言書で指定できる項目には法定相続人の相続分の割合、遺産分割の方法、遺贈や担保責任の指定などがあります。
また、遺言の作成方法には「普通方式」と「特別方式」の2つがあり、「普通方式」は大きく自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つに分かれます。
ただし「遺言を残したい」と考えても、形式に沿ったものではなければ法的な効力は保持できません。そこで確実に法的な効力を持たせるためにも、専門家に遺言書の作成を依頼してみてはどうでしょうか。
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