老後の一人暮らしにはさまざまなリスクが伴います。この記事では、老後の一人暮らしに伴う経済面・健康面・精神面でのリスクと、各リスクの対策について解説します。
多くの人にとって最大の不安といえる老後資金の不足リスクについては特に詳しく解説しているので、現役時代からできる有効な対策や備えについて知りたい人は、ぜひ最後までご一読ください。
老後に一人暮らしをしている人はどれくらいいるのか?
老後に一人暮らしをしている人の数は年々増加しています。
内閣府が公表した「令和4年版高齢社会白書(全体版)」によると、65歳以上の一人暮らし世帯の数は男女共に増え続けており、昭和55(1980年)時点で65歳以上の一人暮らし世帯が全世帯に占める割合は男性が4.3%で女性が11.2%でしたが、令和2年(2020年)には男性が15.0%で女性が22.1%にまで上りました。
男性の一人暮らし世帯の増加率が際立って高いことがわかります。
出典:令和4年版高齢社会白書(全体版)|図1-1-9 65歳以上の一人暮らしの者の動向
老後の一人暮らしで直面する問題とリスクとは?
ここからは、老後の一人暮らしで直面しやすい経済面・健康面・精神面の問題やリスクを順番に解説します。
経済面の問題|老後資金が不足するリスク
老後の一人暮らしで多くの人が直面するであろう問題が、資金不足に陥るリスクです。退職後の家計管理を疎かにすると、収入と支出のバランスが崩れて赤字家計に転落しやすくなります。
実際のところ、赤字を退職金や貯蓄を切り崩すことでなんとか生活を成り立たせている人は少なくありません。
ここからは、退職後の一人暮らしにおける収支の傾向について公的なデータをもとに解説します。
※本記事では「老後」を年金が受給できる65歳からとします。
老後に受け取れるお金はいくら?
老後に受け取れるお金(退職金・年金など)がありますが、そこから差し引かれるお金(税金など)も忘れてはいけません。下記のようなケースを例として解説します。
具体例 |
年金受給見込額の目安※1 |
年金から差し引かれる税金・社会保険料の目安※1 |
会社員
・20~59歳まで会社員(厚生年金)
・勤続年数30年
・生涯平均年収500万円
・退職金1,000万円
・個人年金保険への加入はなし
・65歳から公的年金受給開始 |
約183万円/年
(ひと月あたり約15万2,500円) |
約18万円/年
(ひと月あたり約1万5,000円) |
自営業者
・20~59歳まで自営業(国民年金)
・厚生年金加入歴なし
・付加納付なし
・個人年金保険への加入はなし
・65歳から公的年金受給開始 |
約80万円/年
(ひと月あたり約6万7,000円) |
約14万円/年
(ひと月あたり約1万2,000円) |
会社員がもらえる厚生年金の金額は国民年金とは異なり、勤続年数と生涯平均年収などの要素によって左右されます。
また、退職金を受け取れる場合、退職金の金額が退職金所得控除の範囲内であれば、退職金から税金が引かれることはありません※2。上記の例なら退職金1,000万円は非課税となります。
なお、65歳からひと月に10万円または15万円の年金を受給するために必要な年収の最低ラインは次のとおりです。(会社員として20歳から59歳まで厚生年金に加入した場合)
- ひと月あたり10万円の年金を受給するために必要な年収 200万円
- ひと月あたり15万円の年金を受給するために必要な年収 500万円
上記はあくまで目安です。自分の年金の受給額を具体的に知りたい場合は、年金定期便を確認してください。
※1 表内条件にて厚生労働省「公的年金シミュレーター」を利用して算出した年金受給見込額と税・社会保険料額の概算
※2 表内条件(会社員)の場合、所得税の退職所得控除額内に収まるため(勤続年数20年超の場合、退職所得控除=800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) 参考:国税庁)
単身高齢者の平均的な生活費とその内訳は?
2019年に、金融庁・金融審議会が「老後の生活のためには2,000万円以上の貯蓄が必要」との趣旨の報告書を発表して話題になりました。
ところが世帯によって収支は異なり、全ての世帯に一律2,000万円が必要となるわけではありません。
実のところ、2,000万円という金額は夫婦二人暮らし(無職)と仮定して2017年の「家計
調査報告」の実収入と実支出をもとに算出されたものであり、この調査報告に記載される数字は毎年変わります。
ここで確認すべきは自分にとって老後資金がいくら不足するのかどうかということです。
ここでは総務省が発表した2022年度の「家計調査報告」をもとに老後の一人暮らしに必要な資金について算出します。
2022年度「家計調査報告」によると、高齢の無職一人暮らし世帯の月々の平均収支は、実収入が約13万円で、消費支出が約14万円とされています。つまり、ひと月あたり約1万円の赤字となる計算です。
年単位で考えるなら赤字は1年で12万円、老後の年金生活を30年間と仮定すれば、不足する老後資金は約360万円と計算できます。
ただし、本調査結果の住居費に着目すると、月平均の支出額が12,746円となっており、持ち家を前提とした金額になっていると思われます。もし賃貸で月額5万円の家賃がかかると仮定すると、不足する額は30年間で約1,800万円になります。
このように老後の住まいを賃貸を前提とするか、持ち家を前提とするかで必要となる蓄えが大きく異なります。すべての高齢者をひとまとめにして、◯◯◯◯万円不足している!とは一概には言えないのです。
なお、老後の一人暮らしの生活費(消費支出)の中でコストが大きい支出から順番に3つ紹介すると、「食費」「そのほか消費支出」「光熱・水道」です。「その他消費支出」とは、いわゆる雑費・交際費を指します。
現役時代の家計支出と比べて、老後は社会保険料や税金は下がるものの、そのほかの生活費は大きく変わらないことが分かっています。
むしろ、老後は余暇が増えるぶんだけ娯楽や趣味関連の支出が増えやすいとされているため、ゆとりのある家計を実現するには、現役時代と変わらず気を引き締めて家計管理に取り組む必要があるでしょう。
出典:金融審議会|市場ワーキンググループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」|(2)収入・支出の状況
出典:総務省|家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)結果の概要|表2 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)及び65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支-2022-年
出典:総務省|家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)結果の概要|65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支-2022年-
健康面の問題|入院や介護が必要になるリスク
老後の一人暮らしにおいては、健康面のリスクにも向き合わなければなりません。誰しも、歳を重ねると体力が衰え始め、場合によっては介護や入院が必要になります。
介護や入院が必要になったときに、資金面の不安や身元保証人の不在といった問題で頭を悩ませる人は少なくありません。特に、身元保証人がいないことで入院や施設への入所が認められないとなると、死活問題です。
上述した老後2,000万円問題では、医療費や介護費などの健康面の支出がほとんど考慮されずに必要資金の計算がされています。
介護費用や医療費については別途資金を考えておくことが重要です。
生命保険文化センターが実施した2021年度の調査によると、毎月の介護費用の平均は公的な介護サービスの自己負担額込みで約8万3,000円でした。年に換算すると、平均で1年に約100万円かかる計算です。
決して少なくない額であるだけに、老後の生活資金を予測する場合は、介護費用も必ず計算に入れて貯蓄や資産形成の具体策を検討することをおすすめします。
出典:生命保険文化センター|「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度|介護に要した費用(公的介護サービスの自己負担費用を含む)
精神面の問題|社会から孤立し孤独を感じるリスク
一人暮らしの高齢者が直面する大きな問題の一つに、孤独死があります。
たとえ身体が健康であったとしても、社会的孤立による孤独感が精神に与えるマイナスの影響は計り知れません。なお、孤独は個人の主観に基づく感情ですが、孤立は他者との交流が乏しいという客観的な状況を指します。
孤独感が個人の主観の問題である以上、孤立した人は全員孤独感を抱いているとは言い切れませんが、孤立が孤独感の一因であることに疑いはないでしょう。
一人暮らしの高齢者のうち、特に男性は社会的孤立に悩みやすいとされています。
事実、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した「生活と支え合いに関する調査結果の概要」では、「日常のちょっとした手助けで頼れる人がいない」と回答する単身男性世帯の割合は、単身女性世帯と比べて高いという結果が出ました。
出典:国立社会保障・人口問題研究所|生活と支え合いに関する調査結果の概要 3 日常生活で頼れる人
老後のリスクを軽減させるために今からできることは?
上述した老後のリスクを軽減するために有効な対策について解説します。
老後資金がいくら足りないのかを把握して計画的に貯金する
老後の資金不足のリスクに対処するためは、第一に、不足する金額を可能な限り正確に把握する必要があります。
闇雲に老後資金を貯めるよりも、明確なゴール(金額)を設定して計画的に貯蓄するほうが効率的だからです。
前述のとおり、全ての人が老後生活に2,000万円を必要とするわけではありません。1,000万円不足している人もいれば、理想の老後生活を叶えるためには2,000万円どころか3,000万円が必要だという人もいます。
まずは自分の現状と資産状況を洗い出し、老後の生活費を概算し、老後の不足額を計算しましょう。
退職年齢までの収支、退職金の有無、退職金の見込み額、投資信託、個人年金、所有する不動産の資産価値など、とにかく全ての資産の状況を把握してください。
それらの資産の現状を踏まえたうえで、老後の収支予測に照らし合わせて不足資金を算出することで、リアリティのある資産形成計画を練りやすくなります。
資金計画に焦りは禁物です。着実かつ計画的な資産形成が、老後の生活の安心につながると考えて早めに行動に移しましょう。
NISAやiDeCoを活用して老後資金を準備する
貯金だけでは、インフレーションのリスクに対応しきれない可能性があります。リスクを軽減するためにも、資産の一部をインフレーションに強い株や不動産といった資産として保有するのが良いでしょう。
また、一定額まで非課税で投資・運用できるNISAや個人年金を形成できるiDeCoなどの公的な制度を活用した資産運用は、積極的に活用していきたいところです。
ただし、資金が大幅に不足するからといってハイリスク商品へ安易に大金を投資するのは控えましょう。
なお、インフレ対策には適しませんが、貯蓄型保険で老後資金を準備するのも一つの方法です。貯蓄型保険を利用すれば、生命保険料控除が使えるなどのメリットもあるので、貯金が苦手な人には特におすすめだといえます。
老後の収入を増やす方法を考える
年金と資産だけで老後の不足額を賄えない場合は、収入を増やす方法を考えましょう。
できる限り長く働くことや、年金の繰下げ受給などの手段によって、老後資金が目減りするスピードを遅らせることができます。
たとえば、65〜75歳の間、年金収入とは別にひと月あたり5万円の副収入を得ることができるとしましょう。
この場合、10年間の副収入の合計金額はなんと600万円にも上り、老後資金の目減りを確実に遅らせることができます。そのほかにも、退職時期を延期し、働く期間を伸ばすことで会社員としての総収入を増やすというのも一手です。
年金の受給額自体を増やしたい人のために、繰り下げ受給という制度があります。
2023年9月時点での計算ですが、たとえば、65歳から年間約120万円の年金を受給できる人が受給年齢を75歳に繰り下げた場合、年金受給額は年間約220万円です。この金額は、元の受給額の約1.8倍にあたります。
老後の住まいや持ち家の活用方法の検討を始める
一人暮らしの老後に備えて、住まいに関しても忘れずに計画を立てておく必要があります。
高齢者の一人暮らしでは、賃貸物件を借りにくい、身元保証人や身元引受人がおらず施設へ入所できないなどの問題が生じやすいです。
老後に安心して一人暮らしをするためにも、現役時代から老後の住まい問題を想定して対策を練っておきましょう。
たとえば、マイホームを所有している人なら、介護が必要になったら不動産を担保としてローンやリバースモーゲージを利用し、介護費用を捻出するなどの事前計画が立てられます。
また、マイホームを売って、売却代金を介護施設入居費用にあてることも可能です。ただし、マイホームを希望通りの金額で売却できるとは限りません。
介護施設への入居を希望する場合は、マイホームを希望どおりの金額で売却できない可能性を想定したうえで、資金計画を練ることをおすすめします。
適度な運動とバランスの良い食生活を心掛ける
老後の快適な一人暮らしは、健康維持なくして実現できません。
健康は、想像以上にたくさんの問題を解決してくれます。「健康はお金で買えない」と言われるように、潤沢な資金があったとしても、それだけで健康が手に入るわけではありません。
第一に、適度な運動とバランスの良い食生活を心がけましょう。
おすすめの運動はウォーキングです。ウォーキングには、うつ病や生活習慣病の予防、がんによる死亡リスクの低下、脳の活性化といったさまざまなメリットがあることが研究で確認されています。
運動も、食生活の改善も、一朝一夕に効果が出るものではありません。良い変化を実感するためにも、日頃から良い生活習慣を意識して健康寿命を伸ばし、生き生きとした老後生活を送りましょう。
友人や趣味を増やし、老後の楽しみを充実させる
老後の一人暮らしを充実させるには、人との交流や趣味の充実が肝心です。退職後に人付き合いが急激に減ってしまい、孤独感に襲われる人は少なくありません。
一説によると孤独が健康にもたらす悪影響は喫煙に匹敵すると言われているため、健康のためにも、趣味などを通じて社会や友人とのつながりを維持することが重要です。
老後に趣味やボランティア活動を始めるのも良いでしょう。ですが、近隣住民との交流や、古くからの友人との気の置けない付き合いも、やはり人生を豊かにしてくれます。
また、老後の健やかな一人暮らしには、特に近隣住民との助け合いが肝心です。現代人は仕事に家庭にと忙しいですが、意識的に友人や周囲の人々とのコミュニケーションを図り、日頃から良好な関係を保つことをおすすめします。
各種支援サービスの理解を深める
老後の一人暮らしに対する不安を解消する手段の一つに、自治体や民間業者による各種支援サービスがあります。まずは、住所地の自治体が実施する高齢者の一人暮らしのためのサポート事業について調べてみましょう。
自治体が実施するサポート事業が自分の希望に合わないと思ったときは、地場の民間企業のサポート事業にも目を向けてみてください。
現役時代から前もって老後の生活を想像し、どのようなサポートがあれば快適に暮らせるのかについて検討しておくことで、希望に沿うサービスを選びやすくなります。
特に、入院時や施設入所時に求められる身元保証を請け負ってくれる身元保証サービスは、一人暮らしの高齢者にとっては心強い存在です。
まとめ ゆとりある老後のための準備を始めよう
老後に安心して一人暮らしをするためには、起こりうる問題やリスクを想定して若いうちから対策を講じておく必要があります。
特に、老後資金の不足という経済的なリスクを軽減するためには、計画的に資金を貯めて資産を増やしていくといった長期にわたる努力が不可欠です。
また老人ホームなどの施設への入所及び医療機関への入院時の身元保証に不安を抱いている人や、生活の見守りをして欲しい人、任意後見契約・死後事務委任契約といった対策をとりたい人は、ぜひ一般社団法人全国シルバーライフ保証協会にご相談ください。
一般社団法人全国シルバーライフ保証協会は、司法書士法人などの士業法人から構成されるベストファームグループの一員です。
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