介護老人福祉施設とは、介護が必要な高齢者のための生活施設です。入浴や排せつ、食事などの日常生活の介護をはじめとして、リハビリテーションや健康管理など療養上の世話を全般的におこなってもらえます。また、介護老人福祉施設は入居希望の待機者が多く、入居までに時間がかかる可能性が高いという特徴もあります。
高齢者向けの入居施設には、様々な種類があり、それぞれ入居基準や特徴が異なります。高齢者向けの施設は一口に「老人ホーム」とまとめられるケースも多いですが、似た名称の施設も多く、ご家族にとってどの施設が適切なのか迷ってしまうことでしょう。
本記事では、高齢者向け施設のうちの一つである「介護老人福祉施設」について、他の施設と比較した際のメリットやデメリットなどを詳しく解説します。記事後半では、介護老人福祉施設に早く入居するためにできることも紹介します。ご家族の入居先を探している方は、ぜひ参考にしてください。
介護老人福祉施設とは
介護老人福祉施設とは、介護が必要な高齢者のための公的な施設であり、国や地方自治体などが運営していることもありますが、ほとんどの場合は社会福祉法人によって運営されています。「特養」と呼ばれることが多い「特別養護老人ホーム」も、名称は異なりますがサービス内容は介護老人福祉施設と同じです。詳しくは後述します。介護老人福祉施設(または特養)では、食事や入浴、排せつなどの日常生活の介助をはじめとして、健康管理やリハビリテーションなど、高齢者の暮らしのための多様なサポートを実施しています。まずは、入居基準やサービス内容など、介護老人福祉施設の概要について順番に紹介します。
入居要件
介護老人福祉施設に入居できるのは、常時介護が必要で在宅生活が困難な方に限られます。具体的には、入居のために以下のいずれかの基準を満たす必要があります。
- 要介護3〜5認定を受けた65歳以上の方
- 要介護1〜2認定だが、特定の疾患などにより周囲との意思疎通や日常生活が困難な方
介護老人福祉施設は、基本的に要介護3以上の介護度の高い方の入居が優先されますが、地域や施設により、要介護1〜2であっても入居が認められるケースもあります。また、特例的ではあるものの、がんや関節リウマチなど16種類の特定疾病にかかっていて要介護3以上の認定を受けている方であれば、40〜65歳でも入居が認められる可能性があります。
サービス内容
介護老人福祉施設に入居する方は、要介護3以上の認定を受けている方など、自立して在宅生活を送ることが困難なケースも多く、最低限の暮らしを送るうえでの身の回りのケアを全般的に担ってくれます。例えば、食事や入浴、排せつなどの日常生活のサポートです。また、リハビリテーションといった機能訓練、バイタルチェックなどの日常の健康管理、相談援助、レクリエーションなども実施している施設が多いです。加えて、終身利用を前提とし、看取りまでおこなってくれる施設もあります。
人員基準
介護老人福祉施設は、以下の人員基準を満たしている必要があります。
人員 |
基準 |
医師 |
入居者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数 |
介護職員
または
看護職員 |
入居者の数が3人又はその端数を増すごとに1人以上
(例:入居者が15人であれば介護職員5人、入居者が25人であれば介護職員9人) |
栄養士 |
1人以上 |
機能訓練指導員 |
1人以上 |
介護支援専門員 |
1人以上(入所者の数が100 又はその端数を増すごとに1 を標準とする) |
設備基準
介護老人福祉施設の設備基準は以下のとおりです。
設備 |
基準 |
居室 |
原則定員1人、入所者1人当たりの床面積10.65平方メートル以上 |
医務室 |
医療法に規定する診療所とすること |
食堂
および
機能訓練室 |
床面積入所定員×3平方メートル以上 |
廊下幅 |
原則1.8メートル以上 |
浴室 |
要介護者が入浴するのに適したものとすること |
利用料金
介護老人福祉施設の利用料金は、一月あたり8万円~13万円程度が一般的です。介護老人福祉施設の居住にあたっては、室料および水道光熱費が利用者負担です。さらに、利用者負担が重くなりすぎないように、世帯の所得に応じて、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給されます。負担限度額は、以下のように所得などに応じて段階的に支給額が変わります。
設定区分 |
対象者 |
第1段階 |
- 世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者
- 預貯金額が単身世帯なら1,000万円以下、夫婦なら2,000万円以下または生活保護を受給している方等
|
第2段階 |
- 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額(※)+その他の合計所得金額が80万円以下
- 預貯金額が単身世帯なら650万円以下、夫婦なら1650万円以下
|
第3段階① |
- 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額(※)+その他の合計所得金額が80万円超~120万円以下
- 預貯金額が単身世帯なら550万円以下、夫婦なら1550万円以下
|
第3段階② |
- 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額(※)+その他の合計所得金額が120万円超
- 預貯金額が単身世帯なら500万円以下、夫婦なら1000万円以下
|
第4段階 |
市区町村民税課税世帯 |
※非課税年金を含む
実際の利用料金は、地域や施設によって異なるため、入居を検討している施設のホームページなどで確認するのがおすすめです。
介護老人福祉施設の入居方法
介護老人福祉施設への入居手続きは、以下のような流れでおこないます。
①要介護認定を受ける
住んでいる市区町村の窓口(地域包括支援センターなど)に相談し、要介護認定の申請をする
②入居相談
入居を検討している介護老人福祉施設に連絡して、施設見学をしたり施設の説明を受けたりする。この際、入居予定者の心身の状況や、介護が必要となった経緯、生活や将来に関する希望などの聞き取りもおこなわれる。
③入居申請
入居を希望している施設に必要書類の提出をする。入居時に求められる身元保証人も探しておく必要がある。入居者の状態について詳しく審査するための面談が実施される。
④入居判定
施設の医師や看護師、介護支援専門員などの担当者が集まり会議がおこなわれ、提出書類や面談の内容をもとに受け入れ可能か判定される。
⑤入居決定・契約
審査の結果入居可能となったら、あらためて契約をして、入居準備を開始する。
介護老人福祉施設のメリット
介護老人福祉施設の、他の高齢者向け施設と比較した際のメリットは主に以下のとおりです。
- 費用の負担を抑えられる
- 終身利用が可能
- 24時間の介護体制が整っている
それぞれ簡単に解説します。
費用の負担を抑えられる
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は、介護型有料老人ホームなどの介護施設と比べて費用の負担が抑えられることが大きなメリットです。介護型有料老人ホームなどの施設では、入居する際に一時金の支払いが必要であるケースも多いですが、介護老人福祉施設では不要です。また、年金も含めた利用者世帯の収入に応じて自己負担額が変わるため、所得が低い場合でも、国の補助によって安心して入居できる仕組みが整っています。また、月々の利用料金の半額相当が医療費控除の対象となっています。月々の負担が抑えられているため、長期にわたる介護が必要な場合でも、家族にとって経済的な負担を軽減することができるでしょう。
終身利用が可能
介護老人福祉施設の大きな特徴のひとつに、終身利用が可能な点があります。リハビリを前提としている他の施設では、3か月程度の入居期間が設けられているケースもありますが、介護老人福祉施設では基本的に長期入居および終身利用を前提とした受け入れをしています。入居者が施設を退所しなければならないという心配がないため、安心して長期間にわたって利用できることが魅力といえるでしょう。特に、認知症や重度の介護が必要な高齢者にとっては、終身的なケアを提供できる施設は非常に大きな助けになるはずです。また、入居者だけでなく、家族にとっても、将来的な介護の不安が軽減され、安心して生活を送ることができるでしょう。
24時間の介護体制が整っている
介護老人福祉施設では、24時間体制で専門の介護職員が入居者をサポートしています。介護が必要となっている高齢者の方は、急な体調の変化や怪我など心配な点も多いです。介護老人福祉施設では日中だけでなく夜間の急な介護や医療的なケアが必要な場合にも対応できるため、家族にとっては大きな安心材料となるでしょう。また、入居者の体調管理やリハビリテーションなども日常的におこなわれるため、健康面でのケアも充実しています。
介護老人福祉施設のデメリット
介護老人福祉施設のデメリットは、以下の3点が挙げられます。
- 待機者数が多く入居まで時間がかかる可能性が高い
- 入居に条件がある
- 受けられる医療サービスに限界がある
待機者数が多く入居まで時間がかかる可能性が高い
介護老人福祉施設は、民間の類似施設と比較すると費用が抑えられるうえ、終身利用が可能であることから非常に人気があります。また、利用者が終身利用をするため空きが出にくく、施設に入居できるまでの待機期間が長くなりやすいのがデメリットです。加えて、介護老人福祉施設に入居できる順番は申し込み順ではなく、各施設の「入居判定委員会」が決定し、入居の必要性が高い方から順に入居する仕組みとなっているため、早く申し込んだからといって早く入居できるとも限りません。厚生労働省の令和4年の発表によると、介護老人福祉施設への入居を希望する待機者数は39都道府県で23万人を超えています。特に都市部では、入居を希望する高齢者が非常に多く、数年単位で待機することも少なくありません。緊急性が高くない限り、すぐに入所することは難しいため、家族としては早めの準備や、他の介護サービスを併用しながら入所のタイミングを待つ必要があるといえるでしょう。
入居に条件がある
介護老人福祉施設には、原則として要介護3以上の認定を受けた高齢者のみが入居できるという条件があります。軽度の介護を必要とする要介護1や2の高齢者の場合、入居の対象外となることが多く、そのため他の介護施設や在宅介護サービスを利用する必要があります。また、介護のレベルに関係なく、以下のような「正当な理由がある」と判断された場合は、入居を断られるケースもあります。
- 当該事業所が利用申込に応じきれない場合
- 「問題行動がある」「感染症を患っている」など安全な集団生活が難しいと判断された場合
- 医療行為が常時必要であるなど、利用申込者に対し当該事業所が適切な介護サービスを提供することが困難な場合
受けられる医療サービスに限界がある
介護老人福祉施設は、介護サービスを提供することを主な目的としているため、受けられる医療サービスに限界があります。介護老人福祉施設では医療機関レベルの医療体制は整っていないため、専門医療の対応ができない可能性が高く、入居後に「医療用麻酔の点滴以外での投与」や「透析」、「たん吸引」など、日常的な医療措置が必要となった場合は退去しなくてはいけなくなるケースもあります。また、夜間は介護職員のみで対応している施設が大半であるため、医師や看護職員による見守りが絶えず必要な状況になった場合も退去となる可能性が高いでしょう。
介護老人福祉施設に早く入居するためにできること
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は、費用面などから非常に人気が高く、待機者数も多い施設です。そこで、介護老人福祉施設に早く入居するためには、以下のコツを押さえておきましょう。
- 複数の施設に申し込む
- ユニット型の介護老人福祉施設に申し込む
- 緊急度をアピールする
複数の施設に申し込む
介護老人福祉施設の入居までの待機期間を短縮するためには、1つの施設に絞らず、複数の施設に申し込むことが重要です。介護老人福祉施設への入居は、申込順ではなく「入居判定委員会」という各施設の会議によって決定し、必要性の高い方から優先して入居できます。施設ごとの会議で必要性が判断されるため、ある施設では必要性が低いと判断され後回しにされる恐れがあります。そのため、複数の介護施設に申し込むことで、入居までの時間を短縮できる可能性があるといえるでしょう。
ユニット型の介護老人福祉施設に申し込む
ユニット型の介護老人福祉施設に申し込むことで、入居がスムーズに進むケースもあります。ユニット型の介護老人福祉施設は、一人一部屋で各ベットが区切られており、従来型の介護老人福祉施設に比べてプライバシーを維持しやすいという観点から、従来型より利用料金が高いことが特徴です。料金が高いために人気が低く、従来型よりもユニット型の方が早く入居できる可能性が高いといえます。また、近年設立された介護老人福祉施設はユニット型であるケースが多いため、できたばかりの施設を探せば空室を見つけやすくなるでしょう。
緊急度をアピールする
入居の際には、家族や入居者の状況に応じて緊急度をアピールすることが重要です。たとえば「介護を担っている家族が突然倒れてしまった」「入居予定者が自宅で転倒して怪我をした」などの理由がある場合、それを施設側に具体的に伝えることで、優先的に入居できる可能性があります。特に自治体が運営する施設では、緊急性が高い場合に優先入居の措置が取られることもありますので、申込時に適切な書類や証明を準備し、緊急度をしっかりとアピールすることが、早期入居のカギとなるでしょう。
介護老人福祉施設とほかの施設との違い
一般的に老人ホームと呼ばれる施設には、介護老人福祉施設以外にもさまざまなものがあります。介護老人福祉施設と混同されやすい施設について相違点をまとめてみました。
特別養護老人ホームとの違い
「特別養護老人ホーム」は老人福祉法上の名称であり、介護保険法上は「介護老人福祉施設」という名称が使われます。また、特別養護老人ホームのうち、 定員30名以上のものが介護老人福祉施設と呼ばれ、29名以下のものは地域密着型介護老人福祉施設と呼ばれます。
指定介護老人福祉施設との違い
指定介護老人福祉施設とは、介護老人福祉施設と同じ施設を指します。介護老人福祉施設は、介護保険法に基づいて都道府県知事の指定を受ける必要があるため、「指定介護老人福祉施設」と呼ばれるケースがあります。
介護老人保健施設との違い
「介護老人保健施設」(老健)とは、病院での入院治療を終えた高齢者の方が、リハビリによって家庭に復帰することを目的とした施設です。介護老人福祉施設は終身利用が前提となっているケースが多いですが、その一方で保健施設の場合はリハビリが目的なので、3〜6ヵ月の短期間の入居となります。
介護老人保健施設と介護老人福祉施設の相違点を表で簡単にまとめます。
|
介護老人保健施設 |
介護老人福祉施設 |
施設の目的 |
リハビリによる家庭復帰 |
終身介護(日常的な医療措置が不要な場合に限る) |
サービス内容 |
リハビリ、身体介護、医療ケア |
日常生活の身体介護 |
利用対象者 |
要介護認定1〜5を受けた65歳以上の方 |
要介護認定3〜5を受けた65歳以上の方 |
入居期間 |
3〜6ヵ月間 |
終身利用可 |
月額費用 |
月7〜13万円 |
月8〜13万円 |
まとめ
本記事では、介護老人福祉施設のメリットやデメリット、早く入居するためのコツなどを紹介しました。介護老人福祉施設は、他の民間の高齢者向け施設と比較すると安い費用で利用できる一方、待機者数が多く入居できるまでに時間がかかってしまいがちです。複数の施設に申し込んだり、ユニット型の施設を選んだりするなど、本記事で紹介したコツを参考にして、ぜひ家族の状況に合わせて適切な施設が利用できるようにしましょう。
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