ケアの場面で特に大変なのは、処置に対して抵抗する方や攻撃的な言動をする方への対応です。この対応には相当なストレスがかかり、そのストレスに耐え切れず、燃え尽き症候群になってしまう方もいます。
どのようにケアを進めればいいと思いますか?
まずはケアされる方の立場で考えてみましょう。特に認知機能が低下している方の場合、今起きている状況の理解が困難です。
そのような方は、周囲が本人のためにやっている行為にも恐怖心を覚えることがあります。例えば「入浴」は、着衣を脱がされて裸にされ、さらに温度の変化にもさらされるので、恐怖を感じやすく、抵抗や攻撃的な言動につながることも多くあります。
こうした恐怖感を和らげるために生み出された技法が「ユマニチュード」です。
どうやったら恐怖感を和らげることができるのでしょうか?まずはユマニチュードとは何なのか、概要から解説していきます。
ユマニチュードとは?わかりやすく簡単に説明
ユマニチュード(フランス語:Humanitude)とは、フランス人であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人が作り出した介護・看護におけるケアの技法のことです。
この「ユマニチュード」には「人間らしさ」という意味があり、ユマニチュード技法のケアではケアする側とケアされる側の間で信頼関係を築き、人間らしく寄り添うことを大切にしています。
ユマニチュードの発案者であるイヴとロゼットは体育学の教師であり、2人は体育学の専門家として「生きている者は動く。動くものは生きる」という考え方のもと、1979年からケアの改革に取り組み「人間は死ぬまで立って生きることができること」を提唱しました。
ユマニチュードはこうした経験・考え方から生まれたケアの技法となります。
ユマニチュードの目的・目標とは
ユマニチュードはケア技法の一種なので、主な目的は身体・認知機能の回復や維持です。
ユマニチュードが他のケアの技法と違うのは、ただ単に機能の回復維持に努めるのではなく、患者や介護者の人間らしさ(ユマニチュード)に基づき、人としての尊厳を保つことや、良好な関係を築くことを重視している点です。
そのため、ケアの目標には機能の回復と維持の2つに加えて「最期まで寄り添うこと」も組み込まれています。ユマニチュードにおける3つの目標(ケアレベル)を見ていきましょう。
機能の回復
ユマニチュードでもまずは低下した身体・認知機能の回復を試みることを目標としますが、単に機能の回復を目指すのではなく「介護される方が回復を希望する機能に沿ったケア」を重視します。
例えば「歩くこと」が目標(希望)ならできるだけ立ってもらい、筋力回復を目指します。
付きっきりで介抱するのではなく、ユマニチュードを意識し、今できていることまでは手伝いません。
例えば腕力の低下や認知機能が不十分で身体が上手く洗えない方でも立つことができるのであれば、身体を拭くときはなるべく立ってもらう、といった対応をとります。
他にも自発的に回復を促進させるための機会を与える(例:立って掃除してもらう)ことも大切です。
ケアをする側があれこれ勝手に決めて一方的にケアをするのではなく、介護される方が今できることやしたいことを奪わないケアとなります。
機能の維持
身体・認知機能の回復が難しい場合、現状を維持し、機能を可能な限り低下させないことを目標にケアを行います。
例えば、認知機能が著しく低下していても歩行ができる場合、無理のない程度に歩いてもらい、身体機能の低下を防ぎます。寝たきりでない場合、体操も有効です。日頃から一緒に軽い体操を行い、身体機能の維持に努めます。
最期まで寄り添う
身体・認知機能の回復や維持が困難な場合でもユマニチュードを意識して本人の尊厳を大切にし、最後までその人らしくあることを目指します。
身体・認知機能が衰えた状態の方は自立的な行動が困難です。だからといっていきなりケアを始めるのではなく、「今からお身体を洗いますね」と声をかけるなどなるべく自己決定の機会を与え、ケアされる本人の応答を求めつつ、寄り添いながらケアを行います。
ユマニチュードのケアの際に心がける4つの柱とは?
ユマニチュードでは人間らしさ(尊厳)を保ち、良好な関係を築くことを大切にしています。とはいえどう立ち回れば尊厳を保ったケアといえるのでしょうか?
それがわかっていないとユマニチュードを理解しているとは言えません。ユマニチュードではケアの心構えとして4つの柱を定めています。ここからはその4つの柱のご紹介します。
1.見る
ケアの場面で意外と意識されることが少ないのが「目線」です。何か伝えるときは目線の角度・高さ・近さが大事といわれますが、これはケアの場面でも同じです。目線の位置によっては相手に恐怖感や不平等感を与え、尊厳を損なうことにつながります。
ユマニチュードのケアでは相手を正面に捉え、目線の高さを相手に合わせて近くから見るようにします。そのうえで「私の目を見てください」などと声をかけ、視線をつかみにいきます。
2.話す
ケアは終始無言で一方的な「処置」になることも多いです。なのでケアを受ける側に「支配されている」と思わせてしまうこともあり得ます。ユマニチュードではこれを防ぐために「オートフィードバック」という技法があります。
この技法は今から行うケアの動作を一言ずつ実況的に伝えていくというものです。ケアの内容を「ケアを受ける方へのメッセージ」として発言していきます。例えば「これから腕を洗いますね」といった予告です。
3.触れる
ケアの場面でも移動を介助する際は腕を上からつかんで引っ張るように対応することも多いです。これでは「連行」される時と同じ恐怖感を抱かせてしまいます。
ユマニチュードでは「広い面積でゆっくりと優しく触れて、手をつかまないで下から支える」という対応が推奨されています。力づくで引きずるようなことは避け、子供を持ち上げるときのように優しく触れるようにします。
4.立つ
ユマニチュードにおいて「立つ」という行為は、ひとりの人間であることを認識し、人間の尊厳を保つ行為として重要視されています。本人の身体機能にもよりますが、1日数十秒〜数十分立たせる時間を作ります。
ユマニチュードを実践する5つのステップ【方法】とは
これまでに紹介した4つの柱がユマニチュードの、いわば基本姿勢です。この4つの柱を意識しつつ、相手に施したいケアを実施します。ユマニチュードにおけるケアは来訪から辞去までを5段階に分けて実行します。
ステップ1. 出会いの準備
ユマニチュードによるケアは相手の部屋、つまり相手のプライベートな領域に入る許可を得ることから始まります。具体的には部屋の扉を「ノック」して相手に来訪を知らせます。
最初のノックで返事があれば入室しますが、最初のノックで返事がなければ2度目、3度目のノックを行います。こうしてノックして返事を待つことを繰り返し、ノックで徐々にこちらの存在に気づいてもらいます。
なお、これは入室の許可を得るだけではなく、ノックを繰り返すことでノックの音を聞いた脳が覚醒し、人と会うための準備を整えさせる、という目的もあります。何度繰り返しても返事がない場合、相手が入室を嫌がる様子がないことを確認し、入室します。
ステップ2. ケアの準備
入室の許可は一歩目にすぎません。次はもっと大切なケアへの同意を得る必要があります。同意のないまま行うケアは強制的なケアとなります。
ユマニチュードにおいては「無理矢理のケアはせず、同意を得られないなら諦める」という姿勢が大切で、嫌がることを強制する人だと印象付けないように注意します。
とはいえケアをする側としては、同意を取り付けてケアを行いたいところです。同意を取り付けるコツは「〇〇というケアをしに来ました」と自分の目的を告げるのではなく「あなたに会いにきました」と告げ、目的がケアのためだけではないと伝えることです。
明らかにケアを嫌っている場合、「お話をしましょうか」「体を拭きましょうか」などと誘い、次第にケアの同意を得られないか試みます。
ここで同意が得られない場合にはいったんその場を離れ「自分が諦めさせた」と相手に思わせます。一方的なケアは避け、ケアされる側に「ケアを諦めさせる」という本人の選択の余地があり、自分と対等の立場にあると気づかせることが大切です。
時間をおいてもう一度ステップ1からやり直します。
ステップ3. 知覚の連結
ここまで来て初めて、相手に施したいケアを実施できます。
ただ、ここでもただ単にケアを実施すれば良いわけではありません。相手の「触覚」を意識していないケアでは動作が荒々しくなりますし、「聴覚」を意識していないケアでは声が小さかったり発話が少なかったりと一方的な処置になります。
ユマニチュードでは「知覚の連結」として、ケアされる側の視覚・聴覚・触覚の3つの「知覚」を同時に刺激し、相手が感覚を想像(相手と知覚を連結)しながらケアすることを大切にしています。
視覚・聴覚・触覚、どれか一つの知覚の意識が欠ければ、それが恐怖や怒りにつながり、ケアの拒否につながりかねません。相手と視線を合わせ(視覚を意識)、発話し(聴覚を意識)、触れる(触覚を意識)ということを同時に意識しながらケアを実践しましょう。
また、ここでは先述の「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱も意識しながら、ケアに努めることも大切です。相手と良好な関係を築きましょう。
ステップ4. 感情の固定
認知症が進行しても「怒鳴られて恐怖を感じた」など感情に関する記憶は残るといった話を聞いたことはありませんか?このように感情とセットの記憶は残りやすいといわれています。当然ネガティブな感情だけではなく、ポジティブな感情も記憶に残ります。
ユマニチュードを意識したケアにおいては、「優しい」「嫌なことはしない」など相手にポジティブな感情を残し、次回以降のケアにつなげます。相手にポジティブな感情を残すために、一緒に過ごした時間が心地良いものであったことを共有します。
具体的には実施したケアを振り返りつつ「よくがんばりましたね」「気持ちよかったですね」と感想を語り合う時間を設けるといった対応をとります。
ステップ5. 再会の約束
「また会いたいです」「また来ますね」などと再会を約束し、笑顔で退室します。
ユマニチュードの効果
ユマニチュードは4つの柱と5つのステップで相手との信頼関係を築き、攻撃心や恐怖心などを和らげる効果があります。またユマニチュードは特に認知症に対して効果があるといわれています。
認知症の攻撃的な周辺症状が治まる傾向があり、コミュニケーション頻度が増えて認知症の症状が緩和されることもあります。
ユマニチュードを実践する方(ケアする側)にも効果あり
特に認知症患者に対してのケア時にユマニチュードを意識すると、認知症の攻撃的な周辺症状が治まり、ケアを受け入れやすくなるので、処置がスムーズになります。
また、介護する方のバーンアウト(燃え尽き症候群)の原因となるケアの拒否や攻撃的言動を抑えられるため、バーンアウトを防ぐ効果もあります。
ユマニチュードの効果にエビデンスはある?
ユマニチュードを学ぶにあたって認知症の効果についてのエビデンスも知りたいところです。
ユマニチュードに関する研究文献を包括的にレビューし、認知症患者とその介護者に対するユマニチュードの効果を明らかにする研究では、ユマニチュードに関する1000以上の文献にスクリーニングをかけた結果、ユマニチュードが動揺を軽減したり、認知症の人々の健康状態を改善したり、介護者の燃え尽き症候群を軽減したりすると結論づけています。
Giang TA, Koh JEJ, Cheng LJ, Tang QC, Chua MJ, Liew TM, Wee SL, Yap PLK. Effects of Humanitude care on people with dementia and caregivers: A scoping review. J Clin Nurs. 2022 Aug 3. doi: 10.1111/jocn.16477. Epub ahead of print. PMID: 35922958.
ユマニチュードにデメリットってあるの?
ユマニチュードの効果として認知症の周辺症状が緩和されたり、介護をする方のバーンアウト(燃え尽き症候群)を防げたりするのでユマニチュードを実践するメリットしかないと思えるかもしれません。
ところが、ユマニチュードの実践にはデメリットも存在しています。例えば以下の2つです。
- ユマニチュードのケア手法には4つの柱と5つのステップという決まりがあり、実践には慣れが必要
- ユマニチュードは相手の気持ちを考えて立ち回る分、ケアに時間がかかってしまう
こうした理由から国内ではユマニチュードの導入に消極的な施設もまだまだあります。
認知症とユマニチュードの関係とは
先ほどのユマニチュードが認知症の周辺症状を抑えると説明しました。ユマニチュードは医療や介護の現場で利用されるケア技法のひとつに過ぎませんが、特に認知症を患っている方に有効な技法です。日本では認知症ケアの現場で活用されています。
ユマニチュードのような認知症への対策をもっと知りたいなら
ユマニチュードの意味は「人間らしさ」で、文字通りに人間らしさを尊重したケアの手法です。これから看護や介護の現場で働く方はもちろん、この考え方を意識した自宅で家族を介護する場合にもこの考え方は使えます。
ユマニチュードを学ぶ場合は、今回紹介した4つの柱と5つのステップを意識してみてください。
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