認知症などが原因で判断能力が低下してくると、普段の生活に支障が出てきます。このようなときに役立つのが、法定後見制度です。
この記事では法定後見制度とは何か解説します。法定後見人の特徴や法定後見制度を利用すべき人についてなど利用前に知っておきたい注意点を解説するので、法定後見制度の利用を検討中の方はぜひお役立てください。
法定後見制度とは
後見制度とは、障害や加齢により判断能力に不安がある方や親権者のいない未成年の方に後見人をつけられる制度です。
後見とは、判断能力が低下している人やまだ十分な判断能力を有していない人を保護するための制度で、被後見人が未成年者の場合は未成年後見、被後見人が成年者の場合は成年後見といいます。
後見人は家庭裁判所により選定され、後見人になると被後見人の財産を管理したり、被後見人の行った行為を取り消したりできるようになります。
なお、後見人になるのに特別な資格は必要ありません。弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家のほか、親族や友人も候補者になります。そのうちの誰かが後見人になるケースが多いです。
成年後見制度が設けられた背景
成年後見制度が設けられる以前は、「禁治産・準禁治産者宣告制度」が施行されていました。この制度では、障害などで判断能力が十分ではなく、家庭裁判所から禁治産の宣告を受けた方を「禁治産者」とし、自分で財産を管理することなどが制限されます。本人やその財産の保護を目的としたものでしたが、禁治産者になったことは公にされ、本人の戸籍に記録されるなど、人権を尊重する配慮が欠けた仕組みでした。
こうした背景のもと、より適用しやすい制度に変更し、平成12年から成年後見制度がスタートしました。
成年後見の種類や違い
成年後見にはどのような種類があり、どう違うのでしょうか。ここからその種類や違いを簡単に説明します。
成年後見の種類1:法定後見とは
法定後見とは、認知症や精神障害・知的障害によって判断能力が既に不十分な状態の人を保護する制度です。判断能力が将来不十分になった場合に備えて利用する任意後見とは異なり、後見人を自身で選ぶことはできません。
判断能力を欠く場合には後見、判断能力が著しく不十分な場合には保佐、判断能力が不十分な場合には補助となり、それぞれ後見人・保佐人・補助人がつきます。後見人・保佐人・補助人には被後見人の症状に応じて権限が与えられます。
成年後見の種類2:任意後見とは
任意後見は将来、判断能力が低下する場合に備えて、後見人を選んで公正証書で任意後見契約を結んでおく制度です。契約締結時には判断能力がある点が、成年後見とは異なります。判断能力が低下したときに任意後見監督人が選任されて任意後見がスタートします。
任意後見の場合は、自分の信頼できる人を後見人として選べる点が特徴です。
任意後見制度とは?できること・できないことや制度を利用する流れを解説!
法定後見制度の類型
法定後見制度の類型は、前述のように後見・保佐・補助の3つの類型があります。それぞれを解説します。
後見
後見は、認知症や精神障害などにより常に判断能力を欠いた状態で、自分で意思決定をできない人が対象になるものです。後見の申立てができるのは、本人に加えて、配偶者・四親等以内の親族・検察官・市町村長などです。
裁判所から選任されて後見人となった人には、法的な効力が生じる契約などの行為(法律行為)における代理権や取消権が与えられます。代理権とは被後見人の法律行為を代わりに行う権利で、取消権は被後見人の法律行為を取り消す権利です。
しかし、被後見人が行った日用品の購入をはじめとする日常生活に関わる行為に関しては、権限の対象から外れます。
保佐
保佐は、認知症や精神障害などが原因で、判断能力が著しく不十分な状態である人が対象になります。申立てができるのは、後見と同じく、本人と配偶者・四親等以内の親族・検察官・市町村長などです。
裁判所から選任されて保佐人となると、借金や相続の承認・家の増改築などの重要な法律行為について同意権と取消権が与えられます。同意権は本人が法律行為を行う際に同意を与えたり、同意を与えていない法律行為で妥当性を欠くものを取り消すことができる権利のことをいいます。そのほか、保佐人は申立てによって、相続の承認など特定の法律行為に対する代理権も得られます。
補助
補助は、認知症や精神障害などで法律行為をひとりで行えるが判断能力に不安がある人(判断能力が不十分な状態)を対象にした制度です。申立ては、後見や保佐と同じく、本人と配偶者・四親等以内の親族・検察官・市町村長などです。
後見人や保佐人とは異なり、裁判所から選任されて補助人になっても直ちに権限を行使できるわけではありません。補助人が同意見や取消権を行使するためには、申立てをして審判を受けなければなりません。また特定の法律行為に関しては、本人の同意があれば家庭裁判所から代理権が付与されることがあります。
また、補助の制度を受けた場合であっても、被補助人になったことで本人が資格や地位を失うことはありません。
法定後見人が担う役割とは
法定後見人が担う役割とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。ここで、その役割を詳しく解説します。
財産管理
家庭裁判所により法定後見人に選任されたとき、まず行わなければならないのが財産管理です。本人の財産目録と年間収支予定表を作成したうえで、決められた期限内に家庭裁判所に提出しなければなりません。
収入として、年金収入以外にも不動産収入や株式・有価証券の配当金、預貯金の利息なども記載する必要があります。そのほか、クレジットカードの明細もチェックしておかなければなりません。
毎月や年間の収支を把握し、急に報告を求められても対応できるよう常に管理しておくことが大切です。このほか、費用や税金の支払いなども大切な役割です。
身上監護事務
判断能力が衰えると、さまざまな申請や手続きが困難になります。そこで、法定後見人が行うのが身上監護です。
身上監護とは、本人の代わりに生活環境を整えたり住居を確保したりするほか、要支援や要介護の認定申請をはじめ、介護施設などへの入退去、医療や入院に伴う手続きや費用の支払いなどを行う事務をいいます。
そのほか、必要に応じて賃貸契約の締結や医療サービスを受ける際に必要な手続きを本人の代わりに行う場合もあります。また、契約が正しく履行されているか確認することも、身上監護事務の大切な役割の1つです。
法定後見人に任せられないこととは
法定後見人にも任せられないことがあります。まず、日用品の購入など日常生活上の行為は、法定後見人が取り消すことはできません。
次に、法定後見人は事実行為も行えません。事実行為とは、介護や介助、病院や施設への送迎などの行為を指し、これらは介護士などの専門家が行います。
また、医療行為に対して同意したり承認したりすることも、本人が判断することであり、法定後見人に任せられないものの1つです。ただし、法定後見人が家族である場合には、法定後見人としてではなく、家族として同意できるケースもあります。
そのほか、遺言や養子縁組・離婚・離縁などは被後見人の同意なしに行うことはできません。加えて、居住用不動産の売却は、後見人と代理権の付された保佐人は、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
法定後見制度を利用すべきケース
法定後見制度を利用すべきケースは「法定代理人を立てるべきケース」です。不動産の売却や銀行関係の手続き、遺産分割、身上監護などが必要な場合などが考えられます。
まず、不動産の売却を行うためには、基本的に本人の意志が必要です。施設に入所するため、誰も住まなくなった家の売却を考えるケースもあるでしょう。そこで本人以外が売却をしようと思っても、その時点で本人が意思表示をできなければ法定後見制度を利用して法定代理人を立てなければなりません。
次に、銀行関係の手続きを行う際にも、本人以外が手続きを行うことは基本的に認められていません。法定後見制度を利用すれば、銀行や証券会社で行う手続きも成年後見人が代理人として行えます。
そして、身内が死亡して相続人となった場合も、法定後見制度を利用する必要があります。なぜなら、遺産分割協議を行うためには自分の意志を相手に伝えるだけの判断能力が必要とされているからです。遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、遺産分割協議を進めるためには成年後見人を用意しなければいけません。
また、身上監護も本人以外では行うことのできない行為です。要支援や要介護の申請や病院への手続き・住居の確保などの身上監護を本人が行えない場合にも、法定代理人を立てるために法定後見制度を利用しなければなりません。
法定後見制度を利用する流れをわかりやすく解説
法定後見制度を利用するためには、どのような流れで進めていけばいいのでしょうか。ここでわかりやすく解説します。
①家庭裁判所に申立てる
法定後見制度を利用するためには、まず家庭裁判所への申立てを行わなければなりません。申立ては本人のほか、配偶者や四親等以内の親族・検察官・市町村長などが行えます。申立てには主に次のようなものが必要です。
- 申立書
- 診断書
- 本人の住民票、戸籍謄本、登記されていないことの証明書
- 成年後見人候補者の住民票
必要書類は家庭裁判所によって異なる場合もあるため、申立ての際に確認しましょう。
申立て先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。費用は、たとえば後見開始の申立てであれば収入印紙800円、登記費用として収入印紙2,600円そして切手代3,000円~5,000円などが必要です。家庭裁判所や申立て内容によって異なるため、詳細はご確認ください。
②家庭裁判所で審判が行われる
申立てを行うと、家庭裁判所で審判が行われます。審判とは、後見を開始すべきか調査し、必要に応じて成年後見人を選任するものです。まずは家庭裁判所調査官によって事情聴取や関係先への問い合わせなどが行われます。その後、必要に応じて裁判官の事情聴取「審問」が行われます。
本人の判断能力について正確に把握する必要がある場合は、医師に対し精神鑑定の依頼が必要です。そして、ここまでの結果を踏まえて後見開始の審判を裁判官が行います。この際、後見人などの選任を行うとともに、申立人や後見人などに対し審判内容が通知されます。
令和2年1月~12月の司法統計によると、審理の期間は、2カ月以内に終局するケースが70.1%、4カ月以内に終局するケースが約92.4%です。
③後見事務が開始される
家庭裁判所で審判が行われた後、審判の内容に基づいて後見事務がスタートします。家庭裁判所は後見人などを監督するとともに、必要に応じて後見監督人の選任も行います。後見監督人とは、後見人が行う事務を監督するために家庭裁判所によって選任された人のことです。後見監督人は定期的に後見人の事務の内容について、家庭裁判所に報告する役割を持っています。
後見人の報酬は本人の財産から支払われますが、報酬額は本人の資産内容や後見人の業務内容に応じて家庭裁判所が審判した額です。
後見監督人などが選任された場合も、後見人と同じく家庭裁判所が審判した報酬額が支払われます。また、本人が死亡すると法定後見は終了し、後見人の任務もそこで終了です。終了後は、相続人などに対して管理業務の報告を行い、本人の財産の引き渡しを行います。
法定後見人制度を利用する際の注意点
法定後見制度を利用する際には、注意すべき点もあります。ここでは、利用する際の注意点を解説していきます。
後見人候補者が確実に就任できるわけではない
法定後見制度の申立てを行う際、候補者を具体的に決めておくことができます。しかし、後見人の選定は家庭裁判所が行うため、申立ての際に決めておいた候補者が確実に就任できるわけではありません。
候補者の職業や生活状況、本人との利害関係の有無や、本人の財産管理・権利擁護を行えるだけの能力の有無などから、申立てで定めた候補者に加え、専門家などの中から後見人が選任されます。また、誰が選任された場合でも不服申立てはできません。
申立てが完了するまでに時間がかかる
法定後見制度の申立てには、一定の時間がかかります。まずは申立ての準備に1~2カ月の期間が必要です。申立ての後、裁判所が行う調査や精神鑑定などに2~3カ月かかります。さらに、審判の後確定するまでに2週間の経過を待たなければなりません。
その後も、後見人の登記事項証明書を取得するために、さらに1~2週間必要です。すべての手続きが完了して具体的に後見事務がスタートするまでには4カ月~6カ月ほどの期間を要します。
後見申立ての取り下げは簡単にできない
法定後見制度の申立ては、提出書類を添えた申立書が家庭裁判所に提出された時点で正式に行われたことになります。申立てが行われた後は、審判前であっても、取り下げるためには家庭裁判所の許可が必要です。
法定後見制度は本人のための制度であり、申立人の判断だけで法定後見人制度を終了させることは主旨に沿うものではないと考えられるからです。そのため、安易に法定後見制度の利用を決めることはおすすめできません。
まとめ
法定後見制度は、認知症や精神障害などの理由で既に判断能力が低下してしまった場合、本人を保護するうえで有効な制度です。どのような場面で法定後見制度を利用するべきか、法定後見制度のメリットやデメリットにはなにがあるかなどを考えたうえで利用を決める必要があります。法定後見制度を利用するための手続きなども把握して、本人のために有効利用を心がけましょう。
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