任意後見人は、判断能力が低下する前にあらかじめ選任できるものです。任意後見人を選んでおけば、将来判断能力が低下したときにも日常生活や医療・介護などの希望をかなえられます。
この記事では、任意後見制度を通じて任意後見人を選任するメリット・デメリットを解説します。任意後見制度の利用を迷っている方はぜひ役立ててください。
信頼出来る人を後見人に。任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人が判断能力が衰える前に支援をしてもらう任意後見人を決めておける制度です。任意後見制度を利用するためには、公正証書によって任意後見契約を締結しなければなりません。
任意後見制度は、本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で開始されます。任意後見が始まると、任意後見人は任意後見監督人によって監督されます。
申立てができるのは本人、その配偶者、四親等以内の親族および任意後見の受任者です。契約は本人か任意後見人が死亡したときなどに終了します。また、任意後見制度の利用は施設入居時などに求められるケースもあります。
任意後見人の種類1:即効型契約
即効型契約とは、任意後見契約を行うと同時に裁判所に対して任意後見監督人選任の申立てを行い、直ちに任意後見を開始させる契約です。
すぐに任意後見が開始できる点がメリットですが、開始後に契約内容をよく理解していない本人とトラブルになる可能性がある点がデメリットです。本人からすると「このような契約だったなんて聞いていない」と、不満を感じる恐れがあります。こうしたトラブルを回避するためには、本人も含めて制度の内容を事前にしっかり把握しておくことが大切です。
任意後見人の種類2:将来型契約
将来型契約とは、本人が判断能力のある状態のうちに契約を締結しておき、判断能力が低下した段階で任意後見を開始する契約です。
本人の意向に沿って将来に備えられるメリットがありますが、開始前に本人が死亡してしまったり、任意後見人が本人の判断能力低下に気付けなかったりするなどのデメリットがあります。
任意後見人の種類3:移行型契約
移行型契約は、任意後見契約とともに見守り契約や任意代理契約などを締結し、徐々に支援を移行していくものです。
状況に応じて移行していくため、継続的に支援を受けられる点がメリットとして挙げられます。一方で任意後見人となる人が、移行の段階で任意後見監督人の選任を怠るケースがある点がデメリットです。
法定後見との違いは「本人の判断能力の有無」
法定後見との違いについて、詳しくは下表をご覧ください。
|
任意後見制度 |
法定後見制度 |
成年後見人の選任 |
本人が後見人を選任する |
家庭裁判所が後見人を選任する |
後見内容の決定 |
本人の希望を基に、契約書によって内容を決定する |
家庭裁判所の指針に従い、後見人が判断して決定する |
後見監督人の選任 |
必ず後見監督人を選任する |
裁判所の判断で後見監督人の選任を行う |
利用の流れ・後見の開始 |
1.本人の判断能力がある段階で契約
2.本人の判断能力低下
3.家庭裁判所に後見監督人選任の申立てを行う
4.後見監督人を選任する
5.後見の開始 |
1.本人の判断能力低下
2.家庭裁判所に後見人選任の申立てを行う
3.後見人の選任
4.後見の開始 |
取消権 |
取消権なし |
取消権あり |
居住用不動産の売却 |
契約で定めていた場合は裁判所の許可は不要 |
常に裁判所の許可が必要 |
任意後見人を用意するメリットとは
任意後見人を用意するメリットには何があるでしょうか。ここで、任意後見人を選任する主なメリットを紹介していきます。
本人が自ら後見人を選べる
法定後見制度では家庭裁判所が後見人を選任しますが、任意後見制度では後見人を本人が自ら選任できます。家族や知人など、自分の将来をお願いしたい人を自分で選択できる点は、任意後見制度を利用するメリットです。
将来の生活の希望を伝えられる
判断能力のある段階で契約を締結する任意後見制度では、任意後見人に対して日々の生活、医療・介護などに関する希望などをあらかじめ決めて伝えておくことができます。将来の生活への不安を軽減できる点は大きなメリットです。
監督人が監視してくれるので安心できる
前述のとおり、任意後見制度を利用するためには家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらう必要があります。任意後見人に不安がある場合でも、任意後見制度を利用している間は後見監督人によって任意後見人の行動が監視されます。
不適切な行動がないかチェックしてもらえる体制なので、安心できるでしょう。
任意後見人を設定するデメリットとは
任意後見人を選定する際のデメリットには何があるでしょうか。ここからその主なデメリットについて説明します。
取消権がない
取消権とは、本人が不利な状況で契約した場合などにその契約を法定後見人が取り消すことができる権利のことです。しかし、任意後見人の場合はこの取消権がありません。任意後見制度のデメリットの1つと言えるでしょう。
死後の事務処理などは依頼できない
任意後見制度は、本人が生存中の行為について契約を行うものです。本人が亡くなるまでの間は契約に従って後見事務を行っていきますが、死後の事務処理などをお願いしたい場合には任意後見契約では対応できません。これは法定後見でも同じで、後見制度が対象としてない部分になります。
葬儀や納骨の方法など、死後の事務処理や財産管理などを依頼したいときには、任意後見契約とは別に死後事務委任契約を締結する必要があります。また、死後に後見人に対し依頼できない点は、法定後見制度でも同様です。
任意後見人を選任する流れを解説
任意後見人を選任するまでには、いくつかの手続きを踏んでいく必要があります。ここでその流れを解説します。
任意後見受任者を選ぶ
任意後見受任者とは後に後見人になる方のことを指します。後見人になるために、特別な資格は必要ありません。家族や友人のほか、弁護士などの専門家、法人に依頼できます。前述のように、信頼のおける人を自ら選んで契約を締結しましょう。
ただし、同世代の人を任意後見人にすると、同じタイミングで年を重ねていくため、いざというときに任意後見人の役割を果たせなくなる恐れがあることを頭に入れておきましょう。また、未成年者や破産した人・行方不明者など、後見人になれない人も存在します。
任意後見人にお願いすることを決める
任意後見は契約によって依頼する内容を決められます。依頼内容は基本的に自由で、本人と任意後見の受任者が協議して決めるものです。財産管理についての法律行為や、生活・介護や療養に必要な身上監護に関すること、任意後見人に実際に依頼する範囲などを決めておきましょう。
任意後見人の報酬は、特約がない限りは無報酬です。もし報酬を支払うのであれば、公正証書の中で規定を設けておかなければなりません。報酬の目安は、毎月5,000円~30,000円ほどです。
また、ペットの世話や食事の提供など家事に関することや、身の回りの世話など介護に関することは、任意後見の契約でお願いすることはできません。死後の行為も含め、委任したい場合は別の契約を締結する必要があります。
任意後見人ができること
任意後見人ができることは、財産管理や身上監護などです。具体的には主に次のようなものが挙げられます。
- 所有する不動産や預金・有価証券の管理
- 税金・公共料金の支払い
- 遺産分割協議など、本来は本人がする法律行為
- 医療費の支払いや入院などの手続き
- 要支援や要介護の申請
- 介護サービスの契約や施設入所の手続き
- 介護費用の支払い など
任意後見人ができないこと
任意後見人ができないこととして、主に以下の行為が挙げられます。
事実行為
- 料理の提供
- 入浴の介助
- 部屋の整理や清掃
- 排泄の介助
本人のみが行える行為
日常生活その他
- 日用品や衣服の購入
- 入院の際、保証人となること
- 債務の保証人となること
- 治療に関して同意すること
任意後見契約を締結する
任意後見契約を締結するためには、まず公証役場で公正証書を作成しなければなりません。公証役場の指定はありませんが、本人が居住する地域にある公証役場で作成すると良いでしょう。
基本的には本人と受任者が公証役場の窓口を訪れて契約しますが、難しい場合は公証役場に予約をすれば公証人が出張で対応してくれます。
任意後見契約に必要なもの
任意後見契約を締結するためには、次の手続きが必要です。
- 1. 公証役場に原案と必要書類を提出する
- 必要書類(本人の住民票、戸籍謄本、印鑑証明書、実印/任意後見受任者の印鑑証明書、実印)
- 2.公証人が作成した任意後見契約書の案文を確認する
- 3.公正証書を作成する日時を予約する
- 4.本人と任意後見受任者が契約内容の確認を行い、公証人の前で署名押印する
公正証書を作成するためにかかる費用の目安
公正証書を作成するために、まず基本手数料として11,000円が必要です。そのほか、登記手数料が1,400円、収入印紙代として2,600円かかります。なお、費用は契約内容に応じて異なることに注意しましょう。
また、公証人が出張して作成する場合には、日当や交通費などの費用が別途加算されます。
公証人が法務局へ後見登記を依頼する
任意後見契約が締結されると、公証人が法務局に後見登記を依頼します。後見登記は、法務局に依頼してから2~3週間で完了します。完了後、登記された内容が記された登記事項証明書が作成される流れです。
登記事項証明書は法務局で確認できます。任意後見人の氏名・付与された代理権の範囲が明確になり、後見事務を行う際の証明になります。
任意後見監督人選任を申立てる
本人の判断能力が低下して不十分になったとき、本人の居住地を管轄する家庭裁判所に対して任意後見監督人選任の申立てを行います。申立てができるのは本人、任意後見受任者、四親等以内の親族です。必要書類は以下のものがあります。
- 申立書類一式
- 本人の預貯金や不動産に関する資料
- 本人の戸籍謄本、住民票
- 本人が後見登記されていないことの証明書
- 任意後見の登記事項証明書
- 成年後見用の診断書、診断書附票
- 任意後見契約公正証書のコピー
家庭裁判所で任意後見人監督人が選任される
任意後見監督人選任の申立てを行うと、家庭裁判所が本人や任意後見受任者の状況を踏まえて任意後見監督人を選任します。その結果は任意後見人に対して郵送で通知され、登記は家庭裁判所から法務局に依頼されます。
任意後見人によるサポートが開始する
任意後見監督人が選任されると、任意後見人は関係各所への届出や財産目録の作成を行い、サポートが開始されます。
注意:任意後見人の解任・辞任
任意後見人を解任したり、任意後見人が辞任したりできるケースについて、ここで詳しく解説していきます。
解任できるケース
任意後見人を解任できるのは、任意後見人に不正があった場合や任務に適さない事由があった場合となります。解任を請求できるのは本人のほか、親族や任意後見監督人、検察官です。家庭裁判所に解任が必要と認められると任意後見人は解任されます。
基本的に「辞任」できない
任意後見人の業務は財産管理、身上看護、裁判所への報告などで、通常の生活を送る親族が担うのは難しいケースがあります。しかし、任意後見人は基本的に辞任できません。
遠方や海外への移住が必要となったり病気にかかったりした場合には、家庭裁判所に辞任の申立てを行えば辞任が認められる場合もありますが、任意後見人自ら辞任するのは難しいので注意が必要です。
上記の背景から司法書士などの専門職後見人が選ばれるケースも多い状況です。
まとめ:任意後見の利用に不安があるなら?
任意後見は、判断能力がある段階で本人が後見人を選ぶことができる制度で、本人の判断能力が低下したタイミングで開始されます。自分の信頼できる人を後見人に選任できるなど、メリットも多い制度ですが、後見人に任せることなどに不安を感じる人も多いでしょう。
また、家庭裁判所が指名した任意後見監督人の監督を受けなければならず、融通が利かない面もあります。そこで、任意後見よりも柔軟に財産管理を行える家族信託をあわせて検討することをおすすめします。詳細は別記事にまとめますので、参考にしてください。
全国シルバーライフ保証協会では、任意後見のサポートも行っています。任意後見を行うべきか迷っているのであれば、一度ご相談ください。
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