成年被後見人とは、「成年後見制度」が適用されている人を指します。
認知症などで判断能力が低下すると、銀行口座からお金を引き出せなくなったり、不動産の売却ができなくなったりなど、自身で財産の管理ができなくなります。この「成年後見制度」を利用すれば、判断能力が低下した人に代わって成年後見人に財産管理などを任せることができます。
その代わり、成年被後見人は一定の行為が制限されます。
本記事では、行為制限の内容だけでなく、成年被後見人の意味や手続き費用などをわかりやすく説明するのでお役立てください。
成年被後見人の意味とは
繰り返しになりますが成年被後見人とは、認知症患者などのように精神や健康の問題から判断能力が低下していて、家庭裁判所から後見開始の審判を受けている人をいいます。
これに対して成年後見人は成年被後見人が行う契約や行政手続きをサポートします。成年後見人は成年被後見人を後見し、必要な契約の締結や財産管理の代理などをして、成年被後見人を保護します。
また、成年後見人は一人に限らず、複数名を選任することも可能です。
成年被後見人が成年後見人に後見してもらうには、本人、配偶者、4親等内の親族などが家庭裁判所に対し、成年後見の開始の審判を申立てる必要があります。
成年被後見人になった場合の行為制限とは
成年被後見人となった人が行った行為は、原則、本人または成年後見人が取り消せます。
契約の相手方が認知症等を患っている成年被後見人と知っているかどうかにかかわらず、取消権を行使できます。その際は相手方に対して取消権を行使する旨の内容証明郵便などを送付するのが一般的です。
ただし、食料品やシャンプーのような日用品の購入、電車やバスの利用といった日常生活に関する行為は取り消しできません。
事前に成年後見人の同意を得て、成年被後見人が行った行為も取り消せるとされています。成年後見人の同意があっても、そのとおり契約できるとは限らないからです。
なお、成年被後見人が勝手に締結した取消ができる契約であっても、本人に不利益がなければ、代理権を持つ成年後見人が後から「追認」することで有効な契約となります。
それでは成年被後見人の行為制限について解説していきます。
印鑑登録
成年被後見人は印鑑登録ができないため、印鑑登録証明書の交付を受けられません。印鑑証明書が必要な場合は、成年後見人の印鑑証明書を使用します。
ただし法改正により、令和2年6月30日からは成年被後見人でも、成年後見人が印鑑登録申請に同行して申請の意思を確認できる場合、印鑑登録が可能です。
医師などの資格制限
以前は、以下のような高度な判断力を要する資格について、「成年被後見人に必要な能力がない(欠格事由)」として判断されていました。
- 医師
- 薬剤師
- 社会福祉士
- 介護福祉士
- 弁護士
- 司法書士
- 弁理士
- 行政書士
- 公認会計士
- 税理士
成年被後見人という理由だけで資格を失っていましたが、現在は必要な能力の有無を判断する規定となっています。
訴訟行為
成年被後見人は民事訴訟の訴えなどの行為が制限されます。仮に訴訟行為をする場合は成年後見人が行わなければなりません。
ただし成年被後見人に意思能力があれば、離婚訴訟のような人事訴訟を行うことは可能です。
特許の申立て
特許法7条1項により、成年被後見人は特許出願その他特許に関する手続きは行えないと定められています。
そのため訴訟行為と同じく、特許の申立ては成年後見人が行わなければなりません。
生前贈与
生前に財産を家族などに無償で渡す行為を生前贈与といいます。贈与税は年間110万円まで基礎控除の対象となり、申告する必要がないため、節税目的で利用するケースも多いでしょう。
ただし成年被後見人となった後は生前贈与ができないと考えてよいでしょう。成年被後見人は判断能力の衰えによって、成年後見人に財産を管理されます。それは成年被後見人の利益を守るためなので、たとえ親族が成年後見人であっても、本人の財産が減ってしまうような行為を裁判所に認めてもらうのは難しいでしょう。
また、最終的には裁判所の判断になりますが、成年被後見人は、入学祝いや結婚祝いを送ることも原則認められていません。
保険の契約
成年被後見人は生命保険の契約も締結もできないため、状況に応じて成年後見人が検討することになるでしょう。その際は生命保険の必要性、財産額、保険料負担などを総合的に考慮する必要があります。
養子縁組
養子縁組で相続税の基礎控除額が増え、節税対策になるケースがあります。しかし、成年被後見人になった後は養子縁組は難しいです。
その理由は、成年後見人が成年被後見人を代理して養子縁組を行うことも認められておらず、成年被後見人本人も判断能力が低下しており、養子縁組に関する決断を下すのが困難であるためです。結果として成年被後見人は養子縁組が行えません。
生前贈与にも共通していえることですが、節税対策を行う際は成年被後見人になる前に検討するとよいでしょう。
成年後見人とは?できることの内容
家庭裁判所によって選任される成年後見人は、著しく判断能力が低下している成年被後見人の財産をサポートする役割を担います。
具体的には以下のような成年被後見人の身上監護、財産管理などを行い、取消権、追認権、代理権を持っています。
- 預貯金や現金の管理
- 不動産の管理
- 保険金の受け取り
- 遺産分割
- 老人ホームへの入所や退所の手続き
- 病院への入院などの手続き
- 介護に関する手続き
- 見守り行為
ただし、成年後見人は以下のような成年被後見人の身分関係に関する代理行為はできません。
- 養子縁組
- 婚姻
- 離婚
- 子の認知
- 遺言書作成
- 保証人になる行為
このように成年後見人には「できること」と「できないこと」があるので注意が必要です。
成年後見人になれるのはどんな人?
成年後見人になれない人は法律で定められていますが、なれる人の要件はありません。そのため弁護士・司法書士のような専門家だけでなく、家族・親族でも成年後見人になることは可能です。
ただし、成年後見人の役割は財産管理や身上監護と幅広く、ときに専門的な知識が必要になります。法定後見の場合は家族・親族ではなく、弁護士・司法書士が成年後見人に選ばれることが多くあります。
任意後見で家族・親族に成年後見人になってもらう場合も、事前に親族間で話し合いを行ったうえで「公的な任務で簡単ではない」と自覚しましょう。あくまでも成年後見人は、成年被後見人の利益のために動く必要があります。
成年後見人になれないのはどんな人?
成年後見人になれない人は法律で定められています。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、補佐人、補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をし、または訴訟をした者やその配偶者および直系血族
- 行方不明者
前述したように家族でも成年後見人になれますが、破産した我が子や未成年の孫、行方不明の両親などはなれないということです。
成年被後見人となるために必要な手続きの費用とは
成年被後見人になるために必要な手続き費用について解説します。
収入印紙代
家庭裁判所に申立てる際の費用を収入印紙代として支払います。収入印紙代の目安は3,400円(内訳は800円分+2,600円分)です。
切手代
収入印紙代同様、後見開始の申立てを家庭裁判所に行う際に郵便切手代(予納郵券)を支払います。家庭裁判所が申立人に書類を郵送するための費用です。
郵便切手代の目安は3,270円(内訳は500円×3、100円×5、84円×10、 63円×4、20円×5、10円×6、5円×2、1円×8)です。
ただし各家庭裁判所によって金額が異なるケースがあるため、申し立て先の裁判所の公式ホームページを確認しましょう。
登記されていないことを証明する書類の費用
成年被後見人がすでに後見制度を利用し、登記されている場合は申立てができないため、登記されていないことの証明書が必要です。
費用の目安は1通300円です。基本的に法務局で取得できますが、全国すべての法務局で取り扱っているわけではありません。最寄りの法務局などで取得できない場合は、東京法務局後見登録課に郵送で請求しましょう。
住民票・戸籍謄本の取得費用
住民票と戸籍謄本が必要です。費用は市町村によって異なりますが、目安は住民票1通300円、戸籍謄本1通450円です。本人と後見人候補者の分を取得しなければなりません。
医師の診断書の作成費用
本人の診断書が必要になります。通常の診断書ではなく、家庭裁判所が定めた書式による診断書で、通常は本人や親族がかかりつけ医に依頼します。
費用は病院によって異なりますが、数千円程度で取得できるでしょう。
鑑定費用
本人の判断能力の状態を判断するため、診断書とは別に医師による鑑定が必要です。診断書同様、鑑定費用の目安も病院によって異なり、10万円以下の場合もあれば、10万円から20万円程度かかるケースもあります。
ただし鑑定費用を申立てと同時に支払う必要はなく、家庭裁判所が必要と判断した場合に納めます。本人が負担すると決められた場合は、本人の財産から支払います。
成年後見人への報酬
成年後見人への報酬として、法律上は「成年被後見人の財産から相当な報酬を与えることができる」と定められていますが、厳密な規定はありません。
ただし東京家庭裁判所・同立川支部の「成年後見人等の報酬額のめやす」では以下の金額が公表されています。
- 管理財産額1,000万円以下 → 月額2万円
- 管理財産額1,000万円~5,000万円 → 月額3~4万円
- 管理財産額5,000万円超 → 月額5~6万円
なお、成年後見人への報酬は後払いです。家庭裁判所に申立ててから1年以上経過した後、今までの事務内容や管理財産などを考慮して定められます。その後も1年ごとに報酬が算定されます。
まとめ 成年被後見人とは、成年後見制度の後見人によるサポートを受ける人のこと
成年被後見人とは、認知症などの理由で著しく正常な判断力を欠いていると家庭裁判所に認められ、成年後見人によるサポートを受けている人をいいます。
成年被後見人には行為制限があり、成年後見人は取消権を行使できます。ただし食料品の買い物といった日常行為は取り消せません。生前贈与の規制などにも注意しましょう。
成年後見人になれないのは未成年や破産者などです。家族・親族も成年後見人になれますが、弁護士・司法書士のような専門家に依頼するケースも多いです。
成年被後見人の手続きには費用が発生するので、家庭裁判所のホームページなどで確認してください。
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