成年後見制度を利用すれば、本人が認知症であっても、後見人が代わりに契約などの法律行為を行うことができます。そのため日本政府や金融機関は、成年後見制度(法定)の普及を推進しています。
しかし成年後見制度は、人に財産管理を任せる必要があったり、積極的な資産運用はできなかったりとデメリットもあるので、利用をためらう方もいるでしょう。
では、成年後見制度を利用したくない場合、代わりになる方法はあるのでしょうか。
そこでこの記事では、成年後見制度のメリット・デメリットをはじめ、成年後見制度を利用しない場合の選択肢として「家族信託」とも比較しながら、わかりやすく解説していきます。
成年後見制度(法定後見制度)とは?
成年後見制度とは、認知症をはじめ、知的障害、精神障害によって判断能力が衰え、生活を送るうえで必要な契約などの法律行為が困難な人を保護し、財産を管理する制度です。
厳密に言うと成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度があるのですが、今回は成年後見制度(法定後見制度)として解説していきます。
法定後見制度とは何かわかりやすく解説!手続きの期間や費用を確認
本人の判断能力の程度によって、以下の3段階に区分されています。
- 後見:判断能力が欠けているのが通常の状態の方(被後見人)
- 保佐:判断能力が著しく不十分の方(被保佐人)
- 補助:判断能力が不十分の方(被補助人)
成年後見制度を利用するには、家族などが家庭裁判所に対して申立を行う必要があります。その後、家庭裁判所が本人の判断能力に応じて、それぞれ後見人、保佐人、補助人を選任します。
ただし後見人、保佐人、補助人は、家庭裁判所が最も適任と思われる人物を選任するため、家族ではなく、弁護士や司法書士といった第三者が選任されることも多くあります。
では、成年後見制度を利用するメリットについて、具体的にどのようなものがあるのかを見ていきましょう。
成年後見制度のメリット
まずは成年後見制度のメリットを4つ紹介します。
家庭裁判所で本人の財産が厳格に管理される
成年後見制度を利用すると、本人の財産が保護されます。後見人が行った後見事務は、年に一度、必ず家庭裁判所に報告しなければなりません。
自宅や土地の売却といった大きな財産を処分する場合は、家庭裁判所に事前に許可を得る必要があります。
そのため、本人の家族や親族が勝手に財産を使い込んだり、後見人が財産を横領したりすることも、家庭裁判所の厳格な管理によって防止できます。
被後見人の判断能力が低下して口座凍結されても解除できる
本人が認知症などで判断能力を失うと、場合によっては銀行口座が凍結されます。凍結された場合、家族であっても、その口座から預貯金をおろすことができません。
しかし後見人であれば、凍結された口座からお金を引き出し、本人のために使うことができます。前述したように自宅や土地の売却に関しても、家庭裁判所の許可を得ることで可能になります。
代理権が付与され、契約行為が代わりに行える
本来は本人が行うべき契約行為を、代理で後見人が行えるようになります。通常、法律行為を代理人が行うには本人の委任状が必要ですが、後見人は委任状が不要です。
さらに後見人は、本人の身上監護を行う必要があります。身上監護とは、本人の住居の確保をはじめ、生活環境の整備、介護施設への入退所の手続きや処遇の監視、治療や入院時の手続きなどを指します。
取消権が認められている
後見人には取消権があるため、本人が行った契約を取り消すことができます。例えば本人が悪質な詐欺に遭って結んだ契約でも、あとから取り消しが可能です。
任意後見人や家族信託の受託者(後述)には付与されない強力な権利が取消権ですが、日用品の購入など、日常生活に関する行為の取り消しが認められないので注意しましょう。
成年後見制度のデメリット
成年後見制度のデメリットを3つ紹介します。
財産管理に柔軟性がない
成年後見制度では、家庭裁判所の監視が入るため、財産がしっかり守られる反面、柔軟な財産の運用はできません。
本人の生活のためにのみ財産が使われるため、不動産の売却時も家庭裁判所の許可が必要です。
たとえば孫の学費など、家族のために財産を使おうとしても、成年後見制度の利用後はそれも難しくなります。
亡くなるまで費用が発生する
成年後見制度を利用すると医師の鑑定料などがかかりますし、専門家に書類作成や提出を依頼すれば、さらに費用が膨らみます。
また、成年後見制度は基本的に本人が死亡するまで続くため、後見人への毎月の報酬(月2〜6万円ほど)が発生します。
仮に70歳~85歳まで報酬が発生する場合、月2万円としても、年間24万円×15年=360万円が必要になります。
成年後見制度に関する費用を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
成年後見人の費用はいくら?毎月払えない場合の対処法を解説
家族が後見人になるとは限らない
「家族を後見人にしたい」と本人が願っていても、後見人を選任するのは家庭裁判所です。本人にとって最適な人材を家庭裁判所が選任するため、家族が後見人になるとは限りません。
むしろ、財産の使い込みのハードルを上げる観点から親族以外の第三者が選任されることが多く、士業などの専門家(第三者)が選任される傾向があります。
成年後見制度を利用しない財産管理の方法なら、任意後見制度・家族信託がおすすめ
成年後見制度以外で財産管理する方法には何があるのでしょうか。結論から言うと「任意後見制度」と「家族信託」の2つがあります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人が認知症などで判断能力が衰える前に、あらかじめ本人が任意後見人を選んで契約を結んでおく制度を言います。
任意後見制度のメリットは、本人に十分な判断能力があるうちに契約できるため、自分の意思を反映して後見人を選べることです。本人の希望に沿って設計しやすい制度と言えます。
また、任意後見人の報酬を自由に決められるという点もメリットです(法定後見人の報酬は家庭裁判所が決定します)。
ただし成年後見制度のような取消権がないので注意してください。
また任意後見制度は本人の判断能力が低下した際、家庭裁判所に申し立てを行うことで、はじめて契約の効力が発生します。
この申し立ての判断は自分たちで下す必要があり、本人のことを見守りながらタイミングを図る必要があります。
任意後見制度とは?できること・できないことや制度を利用する流れを解説!
家族信託とは
家族信託とは、本人が自分の財産を管理できなくなったときに備えて、信頼できる家族に財産の管理や処分の権限を与える方法です。
成年後見制度では、「本人の財産の保全のために財産管理を行うこと」が第一の目的なので柔軟な管理は行えませんが、家族信託は信託目的によって柔軟な管理が可能になります。
信託目的とは「高齢で病弱な配偶者の財産管理のため」や「資産の有効活用のため」など、財産を誰のために、どのような目的で、どのように管理するか、という目的・目標です。
ただし身上監護などの代理行為は認められていません。
任意後見制度と家族信託を徹底比較
任意後見制度と家族信託を比較した表は、以下の通りです。
|
任意後見制度 |
家族信託 |
権限 |
契約で定めた範囲、財産管理については家裁の監督を受ける |
本人の希望を反映した自由度の高い財産管理 |
代理権 |
あり |
なし |
開始時期 |
本人の判断能力が低下したとき |
契約締結と同時 |
終了時期 |
本人の死亡まで |
契約で定めたときまで |
身上監護権 |
あり |
なし |
家庭裁判所の監督 |
あり |
なし |
家族だけで財産を管理できるか |
できない(家庭裁判所に監督される)。 |
可能 |
導入費用 |
専門家に依頼した場合は10~20万円+実費 |
専門家に依頼した場合は1億円以下の財産で1%程度+実費 |
継続費用 |
任意後見監督人が選任されると月2~6万円程度かかる(本人が死亡するまで)
後見人の報酬は契約内容次第 |
なし |
財産管理の柔軟性については家族信託に軍配、身上監護が必要なら任意後見制度がおすすめ
家族信託は任意後見制度と違って家庭裁判所の監督がないため、本人の意思に従った財産の管理や処分、承継を受託者(財産を管理する人)が実行できます。
結果的に柔軟な財産管理が可能になるでしょう。所有権は受託者に移るものの、信託された財産から生じる利益は、それまで同様、本人が自分で受け取ることができます。
任意後見制度では、後見人が基本的には本人の財産を全て管理できますが、家庭裁判所の監督を受けるため、柔軟な財産管理はできません。
ただし、被後見人本人のために生活、治療、療養、介護などに関する契約を締結できる身上監護など法的な権限を有するメリットがあります。
そもそも家族信託と任意後見制度は併用できる?
結論から言うと、家族信託と成年後見制度はカバーできる範囲が違うので併用できます。本人にとって身上監護が必要かつ、管理すべき財産がある場合は特に有効です。
認知症に対する備えや老後対策をしっかり行いたい場合は、家族信託と任意後見の併用を検討するとよいでしょう。
まとめ 成年後見制度を利用したくないなら、認知症になる前の対策が大切!
成年後見制度(法定後見制度)は家庭裁判所によって厳格な資産管理が行われるものの、本人のためにしか財産は使えません。より資産を有効活用したい場合は、家族信託を検討するとよいでしょう。
また、家族がいなくて身上監護を頼めない場合は、任意後見制度の利用も検討してください。
ただし家族信託・任意後見制度は認知症になる前の契約が必要です。認知症になったあとは成年後見制度しか利用できないため、早めに対策を立てることが大切です。
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