相続税とは、故人の財産を相続するときにかかる税金です。相続税はある程度の資産をお持ちの方にしか発生しません。しかし、その税率は10%〜55%と重く、さらに原則として現金で一括納付を求められるので、納税者にとっては負担の大きい税金といえるでしょう。また相続税申告の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。それゆえ、相続が発生したらなるべく早いうちに、自分は課税されるのか、課税される場合は相続税額はいくらなのか、早めに把握して準備することが大切です。
相続税が無税なのは財産がいくらまで?
自分に相続税がかかるかどうかは、財産が基礎控除を超えるかどうかで判断します。基礎控除額を求める計算式は下記の通りです。
基礎控除額=3000万円+(600万円✕法定相続人)
例えば、夫が死亡して妻と子供2人が法定相続人となる場合の計算は3000万円+(600万円✕3人)で4800万円が基礎控除額となります。夫の財産が4800万円よりも多ければ課税され、4800万円以下なら課税されません。
基礎控除内に収まらず自分が課税されることがわかったら、相続税がいくらかかるか計算します。相続税の計算はおおまかに次の順番で進めていきます。
- 不動産や現金など遺産をすべて把握する
- 債務(借金)やお葬式にかかった費用を遺産額から引いて、遺産の総額を出す
- 遺産総額から基礎控除を引く
- 上記3で出てきた遺産の額を一旦法定相続分で分配する
- 上記4で出てきた額に、相続財産額に応じて定められている所定の税率をかけて相続税額を出す
- 上記5で出した相続税額の総額を、実際に相続する割合で割りなおす
1~6だけでも計算が十分ややこしいのですが、上記は配偶者控除をはじめとした各種税控除や、生前行われた贈与分の計算などを省略しています。もし、これらの要素をふくめ、正確に計算しようとすると、途方もなく手間がかかるのが相続税の計算なのです。実際にご自身で相続税申告をしようとしてギブアップした後、税理士に相談される方も多くいます。計算の各ステップについては後ほど説明します。
本記事では、少しでも相続税の計算の助けになればと思い、相続税の早見表(速算表)や弊社で作成した簡易相続税シミュレーターをご紹介します。
法定相続人について詳しく知りたい場合は「相続税と法定相続人|相続人の数で相続税の基礎控除が変わる?」という記事があるので合わせてお読みください。
らくらく!相続税額早見表(概算)
先に述べたように、相続税の計算はとても難しいです。自分の相続税が正確でなくてもいいから、大体いくらくらいかパッと知りたい方はこちらの早見表を参照ください。横軸が財産の額、縦軸が法定相続人の数です。法定相続分で遺産分割したとして計算しただけの相続税額ですが、目安としては十分かと思います。法定相続人とは民法に定められた相続人のことで、被相続人の配偶者や子ども、親、兄弟姉妹、養子などです。
法定相続人 | 子の人数 | 4000万円 | 5000万円 | 6000万円 | 7000万円 | 8000万円 | 9000万円 | 1億円 | 2億円 |
配偶者と子 | 1人 | 0 | 40 | 90 | 160 | 235 | 310 | 385 | 1670 |
2人 | 0 | 10 | 60 | 113 | 175 | 240 | 315 | 1350 | |
3人 | 0 | 0 | 30 | 80 | 138 | 200 | 262 | 1218 | |
子のみ | 1人 | 40 | 160 | 310 | 480 | 680 | 920 | 1220 | 4860 |
2人 | 0 | 80 | 180 | 320 | 470 | 620 | 770 | 3340 | |
3人 | 0 | 20 | 120 | 220 | 330 | 480 | 630 | 2460 |
表を見ていただくと分かる通り、子の人数が多い方が相続税額も少ないことが分かります。また、法定相続人が子どもだけのときの方が、相続税額が大きくなります。配偶者の税額軽減の制度を利用できないためです。よって、一般的に二次相続(最初の相続で配偶者と子が相続した後、その配偶者が亡くなって発生する二度目の相続)の方が相続税額が高くなります。
もっと詳しく計算するなら相続税シミュレーター(概算)
相続税額早見表よりも法定相続人が多い場合や遺産総額が多い場合は、下記のバナーからシミュレーターをお使いください。無料で相続税のシミュレーションができます。相続財産の総額・配偶者の有無・その他の相続人・相続人の数などを入力するだけで相続税額を計算できます。このシミュレーションの結果も概算です。あくまで目安としてお使いください。
大変でも自分で相続税額を計算するなら!相続税計算6つのステップ
不安だから自分でも計算したい方は、以下のステップを経てご自身で計算してみましょう。
ステップ1:亡くなった方の遺産をリスト化しての総額を出そう
まず、亡くなった人が持っていた財産を全て書き出してください。預貯金、土地、建物、株券、宝石など、どんな小さな財産も見逃さないようにご注意を。
こんな財産に相続税は課税されます
- 土地、家屋
- 現金、預貯金
- 株式
- 保険金、死亡退職金(500万円✕法定相続人の数だけ控除あり)
- 公社債
- ゴルフの会員権など
- 美術品、骨董品
- その他(事業用資産、特許権、売掛金など)
それぞれの財産の評価の仕方は本記事では解説しきれませんので、「相続税における財産評価額とは? 評価の基本と計算方法」という記事の方をご参照ください。
ステップ2:債務(借金)やお葬式にかかった費用を遺産額から引いて正味の遺産額を出す
遺産である土地・建物や預金の合計などから、借入金や未払金などの債務と葬式にかかった費用を引きましょう。これが正味の遺産額になります。死亡保険金や死亡保険金は非課税限度額を超えた分が加算されます。
ステップ3:遺産総額から基礎控除を引く
「ステップ2」で出した正味の遺産額から基礎控除を引きましょう。これが課税遺産総額になります。
ステップ4:課税遺産総額を法定相続分で一旦分配する
「法定相続分」とは、民法に定める相続人が2人以上いる場合の各人の相続割合のことです。ステップ3で算出した課税遺産総額を法定相続分で按分します。
主な法定相続分
- 相続人が配偶者のみ:配偶者が全部相続
- 相続人が子どものみ:子供が全部相続
- 相続人が配偶者と子:配偶者 1/2 子1/2
- 相続人が両親: それぞれに1/2づつ
- 相続人が配偶者と父母:配偶者 2/3 父母 1/3
- 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4
ステップ5:相続財産額に応じて定められている所定の税率をかけて相続税の総額を出す
ステップ5では、ステップ4で各相続人に分配した後の額を、下の相続税の速算表の課税価格に当てはめて、適用される税率と控除額を調べます。例えば、法定相続分で分配した後の配偶者の相続分が5000万円なら、税率が20%で200万円の控除が受けられます。5000万円✕20%-200万円で800万円が相続税額です。
相続税の速算表
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
ステップ6:相続税額の総額を、実際に相続する割合で割りなおす
ステップ5の相続税の総額をもとに、実際に分配したい相続割合で割りなおし、各相続人の相続税額を計算します。
ここまでの流れを具体例で見ていきましょう。
(例)相続人が配偶者と長男・長女で、配偶者50%、長男が30%、長女が20%で遺産を分配したい場合
(ステップ1)故人の財産をリストアップして遺産の総額を出す
現金:5000万円
不動産:1000万円
死亡保険金:6500万円 → 相続人が3人で死亡保険金の非課税限度額控除後は5,000万円
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→遺産の合計:1億1000万円
(ステップ2)債務(借金)やお葬式にかかった費用を遺産額から引いて正味の遺産額を出す
借入金:800万円
葬儀費用:200万円
遺産の総額1億1000万円-(800万円+200万円)
—————————————
→正味の遺産額:1億円
(ステップ3)遺産総額から基礎控除を引く
基礎控除額=3000万円+(600万円✕法定相続人)
正味の遺産額1億-基礎控除(3000万円+(600万円×3人))
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→課税遺産総額:5200万円
(ステップ4)課税遺産総額を法定相続分で一旦分配する
配偶者:5200万円 ✕ 1/2 = 2600万円
長男:5200万円 ✕ 1/2 ✕ 1/2 = 1300万円
長女:5200万円 ✕ 1/2 ✕ 1/2 = 1300万円
(ステップ5)相続財産額に応じて定められている所定の税率をかけて相続税の総額を出す
速算表にあてはめて、各人の相続税額を計算する。
配偶者:2600万円 ✕ 15%(税率) - 50万円(控除額) = 340万円
長男:1300万円 ✕ 15%(税率) - 50万円(控除額) = 145万円
長女:1300万円 ✕ 15%(税率) - 50万円(控除額) = 145万円
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→相続税額の総額:630万円
(ステップ6)相続税額の総額を、実際に相続する割合で割りなおす
配偶者:630万円 ✕ 50%(相続割合) = 315万円 → 相続税の配偶者の税額軽減で0円に!
※夫婦どちらかが亡くなり配偶者が相続する遺産額が「1.6億円」または「法定相続分」までであれば、配偶者は相続税が非課税
長男:630万円 ✕ 30%(相続割合) = 納付税額は189万円
長女:630万円 ✕ 20%(相続割合) = 納付税額は126万円
以上のように、相続税額の計算は一筋縄ではいきません。遺産や相続関係が複雑だと計算はより難しくなります。そんなときは、無理せず税理士などの専門家を頼ってください。あらためて、相続税の計算をざっくり行いたいだけでしたら、こちらのシミュレーターで計算してしまう方が良いでしょう。